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| 「誰よりも、そばにいる」 (14)携帯 わかんない、と言いながらも、絶対にBCの練習試合を見に来るはずの逢理だった。それなのに、今日の応援席には、彼女の姿が無かった。 奏大は野球をしていても上の空だった。 逢理の昨日のバイト先での様子からしても、何かあったのだろうかと心配になった。大学も休んでいるのだろうか。 午前中、雨がふったせいで、グランドはぬかるんでいた。 空を見上げれば、雲がまだ薄暗く低く、奏大の頭の上に広がっている。 そんな天気の中で、ジャージも脱いで半そでのTシャツで、奏大は三塁と二塁の間に立って腕組みをしていた。 敵の攻撃よ、早く終われ。 外野、内野を見ながら、アウトカウントを指で示して、残りワンナウトであることを確かめ合う。 敵の攻撃よ、早く終われ。そして、このゲームよ、早く終われ。 奏大のチームは5対0で勝っていた。この相手の攻撃が終われば、ゲームセット、7回コールド勝ちだ。 こんなグランドコンディションの悪い日に長く試合をやっていても、なんかスカッとしない。 気分がよくない。 奏大は空を見上げた。 いつものあの顰蹙を買うほどのうるさい声援が無いのは、こんなにも寂しいものなのか。 奏大は自宅に戻ってから、シャワーを浴び、自室でごろんと寝転んでいた。 逢理は、どうしてる? 携帯を握り締めてから、腹の上に乗せた。 中学のとき、逢理が携帯を買ったと聞いて、奏大も急いで買った。そして、お互いに初めて携帯を持った嬉しさで、番号やメールアドレスを交換した。 しかし、いつも顔を合わせる二人だけに、メールでのやりとりは全くなかった。 電話もかけなかった。 いつも、すぐそばにいる。そんな安心感があるから。そして、わざわざ電話やメールで伝えるようなことが二人の間にはこれといって無いから。 そうして、随分長い間電話もメールもせずにいたけれど、逢理の番号やアドレスは変わっていないだろうか。多分変わっているだろう。そして変えたことをわざわざ、俺に連絡なんてしないんだろうな、そう奏大は諦めていた。奏大自身は番号もアドレスも変えずにいたのだが。 ふと、逢理にメールでもしてみようか、そんな気になった。 届かないかもしれない。しかし、逢理の様子が心配だった。余計なお世話だなぁと自分でも思うのだが、「元気だよ」と一言返ってくれば安心する。 初めてのメールを送るべきかどうか、奏大はしばし悩んでいた。 すると急に腹の上で携帯が怒ったような音を立てて震えだした。 奏大は驚いて、急いで携帯を取り上げ、メールの着信を確認した。 メールの差出人は脇坂杏子。 脇坂杏子はBCに体験入会した後、奏大の勧めで正式入会した。しかし、運動オンチなので飲み会(正式には「ミーティング」)にだけ出ます、という。 BCは「お楽しみクラブ」的なノリもあったので、そういう飲み会だけ参加というメンバーが他にも大勢いる。なので脇坂だけが特別なわけではなかった。 しかし、脇坂は実際のところ、少し手のかかる一年生だった。 かわいく、甘え上手な、男心をくすぐる女の子だった。例えるなら、室内犬の仔犬のようだった。大きく黒い瞳で遠慮がちに周りを見ているかと思うと、打ち解けてくると人懐っこい笑顔で擦り寄ってくる。実際ボディタッチも多く、それをされた男子たちは大きな誤解をしてしまう。 危険なタイプだ。 脇坂はBCであっという間に人気者になってしまった。勿論、それは男子の間でだけの話だが。 奏大は彼女をサークルに誘った手前、彼女の無邪気な攻撃から逃れられない位置にいた。なぜか、奏大は脇坂に一番信頼されているようだった。 サークルのメンバーの携帯番号やアドレスはキャプテンの奏大ではなく、幹事の菊池が管理しているのだが、脇坂は奏大に直接番号とアドレスを渡してきた。 「赤沢先輩の番号とアドレスも教えてくださーい」 無邪気に言われると断ることもできず、どうせ男子全員に同じことをしているんだろうと思って番号などを教えた。 すると、すぐに脇坂からのメールで、受信箱が埋め尽くされるようになった。 奏大はなんとなく、ついていけない気分のまま、仕方なく返事を出していた。 そんな脇坂からのメールがまた来たのだ。 <今、何してますかー?> 疲れて寝てるよ、と奏大はメールを見てつぶやいた。 奏大は返信もせず、携帯をまた腹の上に戻して、天井を見つめたまま考えていた。 逢理、何してんだろう。 メールしたら、やっぱりウザイって思われんのかな。 今日は会えなかったな。 あの元気な笑顔を見ると、ほっとするんだ。 顔が見たかったな。 逢いたかったな。 |
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