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| 「誰よりも、そばにいる」 (15)強い風 逢理が水曜にバイトを入れていないのは、奏大の練習試合を見るためだった。 大声で応援すると、周りから冷たい目で見られたが、奏大は嬉しそうだった。 だから、奏大を応援するために、水曜はあけてあったのだ。 その水曜になったが、逢理は、奏大が練習試合をしている公園へ行くことができなかった。なぜかはわからないが、足が向かないのだ。 逢理は大学の図書館で、柄にも無く恋愛小説などを読んでいた。誰かに見られたくないという思いから、棚の陰に腰を下ろして小さくなって読んでいた。 それなのに、そういうときに限って見つかってしまうものだ。 「何を読んでるの?」 そんなふうに声をかけられて、逢理は顔を上げた。 「やぁ」 柴崎が眼鏡越しに逢理を見下ろしていた。 逢理が返す言葉に困っていると、柴崎は逢理と同じようにフロアにしゃがむと、目の高さを合わせて、逢理の目を覗き込むようにして聞いてきた。 「最近、メール、あまり返してくれないね」 逢理は視線を落とした。 「嫌われたかな」 逢理は必死で言葉を探していた。 柴崎はそんな逢理の様子をじっと見ながら、 「笑った顔が好きなのに、全然笑ってくれないし」 と、無表情のまま言った。 逢理は何と言っていいのかわからず、あきらめて相手の言うがままを、聞こうと思った。 「俺のこと、嫌い?」 逢理は、柴崎に見つめられて、かすかに首を横に振った。 「じゃあさ、もっと仲良くしてよ。俺、瀬戸さんのために、もっといろいろしてあげたいと思ってるんだ」 「ありがと……」 「今度、五楼坂の方へ遊びに行かない? 今日、これからでもいいよ」 逢理は驚いて断る理由を探した。 五楼坂はこの街では一番大きな繁華街だった。大学から15分ほど歩いた所にある駅のそば、山側に向かって伸びた道沿いにある。いろいろな店が建ち並び、デートスポットにもなっていた。 「また、今度ね」 逢理はそれだけ言って立ち上がり、本を棚にもどして逃げるように図書館を出た。途中まで追いかけてきた柴崎も、諦めたらしく、大学の外までは追ってこなかった。 逢理は自分らしくないと落ち込んだ。 今まで気の進まない相手は、はっきりと突き放してきた。しかし、柴崎にはそれができなかった。兄のことを知っていて、親切に写真などを見せてくれた人だからだろうか。 もう日が暮れて、風が強く吹いていた。生き物のようにうねりながら、早く流れる雲からは、また雨が落ちてきそうな気配だ。 公園に行っても、もう奏大たちの練習は終わってしまっているだろう。 朝さしてきた傘をぶらぶらと手に遊ばせながら、逢理は家に帰り始めた。 途中のあまり人気の無い古びた美容室の角を、右へ行けば逢理の家へ続く。そして左に行けば、すぐ奏大の家がある。 逢理はしばらく美容室の角で立っていた。 奏大の家は見えている。 小さい頃は、あの家の前まで行って、二階に向かって、「奏大」と叫んだものだ。すると、奏大が顔を出して「何?」と聞いてきた。 『算数、教えて』 『いいよー。入れよ』 奏大はもう家に帰ってきているかな。もしも呼んだら、顔を出してくれるかな。その後、私はなんて言えばいいのかな。 あの噂は……。 逢理は奏大の家に背を向け、角を右へ曲がった。 のそのそと亀のような鈍さで、家への道を歩いた。 そして歩きながら、私は奏大の妹じゃない、と逢理は思っていた。 「妹じゃないんだよ、奏大」 そんな呟きが、この強い風に乗って、奏大の窓をゆすればいいと思った。 |
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