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| 「誰よりも、そばにいる」 (2)兄のこと 瀬戸(せと)逢理は6歳のとき、兄を失った。 10歳も年上の兄で、逢理とは二人きりの兄妹だった。 ある年の冬、高校の友達とスキーへ行ったきり、帰ってこなかった。上級者コースへ行ったことは友人の証言でわかっているが、何時間待っても、何日たっても、捜索隊が探しても、兄は帰ってこなかった。 春になっても兄の行方はわからないままだったが、家族はいつか、兄が帰ってくるものだと信じていた。 今にも、ひょっこり帰ってくるかもしれない。 歳が離れすぎていたせいで、逢理には兄との思い出が多くあるわけではない。 それでも、写真で見ると、兄は逢理と手をつないで笑っている。 何かしてくれたという思い出は無いけれど、逢理にとって、兄は、この人だけだ。 少なくとも、父や母の中に兄は生きていて、その中で暮らす逢理は、兄の存在を嫌というほどに感じる。兄の部屋はそのままだし、誕生日が来ればみんなで兄の歳を数えてろうそくを立てる。 きれいなままの兄の部屋を、毎日掃除する母。 「逢、もう19でしょ? ちゃんと毎日部屋くらい掃除しなさい」 そんなふうに言いながら、いつのまにか逢理が兄の歳を追い越して、大学へ行ってしまったことを寂しく思っている。逢理には、それがよくわかった。 だから、わざと掃除を母に任せて、彼女はバイトへでかけた。 「ごめん、ママ。今日も帰り遅いんだ」 「気をつけてよ。心配なんだから……」 母の言葉を背中に聞きながら、逢理は自転車に乗った。 両親には内緒だが、逢理のバイト先はかつて兄が勤務した場所だった。 兄の友達から聞いて、駅前のコンビニでバイトしていたことを知った。それで、高校からずっと逢理はそこで働いている。決して、兄との接点が見つかるわけではない。時は流れ、もう兄を見知っている店長もいない。尚更、兄の思い出なんかは残っていなかった。唯一、瀬戸という名札が引き出しの隅に残っていた程度だ。 それでも、その名札を見つけたときは、いとおしかった。 雨上がりの街は、汚れをきれいに洗い流されたように、キラキラと輝いていた。 路面の水溜りも、電線にたまった滴も、木々が落とす小雨も、元気に自転車をこいで走る逢理には眩しかった。 空に虹が出ていた。 ふと、パーカーを貸そうとしてくれた奏大のことを思い出した。 濡れた服を着替えしっかりと厚手のジャージを着込んだ逢理だったが、彼のことを思い出すとなんとなく笑顔になった。 多分、後で、コンビニに来るだろう。 |
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