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| 「誰よりも、そばにいる」 (21)逢いたい 切れた電話をそっとデスクの上に置いた。 星明りが逢理の部屋に入ってきて、もしかしたらピーターパンでもやってくるんじゃないかと思わせた。その空は奏大のいる福島に繋がっている。 遠くはない。車さえあれば3〜4時間で着く。 きっといつでも会える距離。でも、そのまえに、届けておかなくてはならない想いがある。 昨日も言えなかった。 今夜も言えなかった。 いつ、言えるんだろう。 たったひとこと、傍にいたい、ずっと傍にいたいと。 ようやく8月になり、本格的な夏休みが始まった。 逢理はバイトを休み、友人たちと遊園地ツアーを楽しんでいた。ディズニーランドはもう何度も行ったので、少し足を伸ばして、ナガシマスパーランド、パルケエスパーニャ、鳥羽水族館へ行ってみた。 バスツアーで女4人の気楽な旅だった。そして、その数日間は奏大のことを忘れられると思っていた逢理だった。しかし、友人たちは皆彼氏がいて、いつもメールや電話で連絡を取り合い、話の端々に恋人の話題がこぼれ出る。 お土産を何にしようかなとか、写メ送ろうとか、恋人のいる者にとっては当たり前に出てくる言葉が、逢理の胸をチクチク刺すのだった。 どこにいても、奏大を思い出す。 こんなに怖い乗り物、奏大にも教えてあげたい。きっと強がるけど、絶対怖いはず。 携帯ストラップなんていらないかな。お土産が食べ物じゃ、寂しいし。それに腐っちゃう。 何度電話しても、きっと奏大に告白する勇気は出ないだろう。 電話で突然、逢いたいと言われたって、奏大も戸惑うはずだ。そう思うと、逢理は余計奏大に電話できなくなっていた。そのせいで、奏大と電話したのはもう2週間も前になる。 奏大からは電話がかかってくることはなかった。 時折、メールを送ってみると、普通にメールは返ってくる。でも、それは、世間話ばかりで、どこか自分たちの話を避けているように思えた。 奏大は特に、自分のアルバイトについて、深く語らなかった。逢理に話してもわからないと思ったのだろうか、大変だったよとか、疲れたよとかその程度の言葉しか返ってこなかった。 夜、生まれた場所から遠く離れた場所で、なかなかも眠れない日が続いた。時折、部屋を抜け出して、ホテルのロビーに座り、携帯を祈るように見つめていた。 勇気をください。 <今日は志摩マリンランドに行った> ≪楽しそうだな、羨ましい≫ <明日帰るんだ> ≪おう、気をつけてな≫ 心の距離が、少し、ほんの少し近くなろうとしているのに、奏大の所へはもう歩いて会いにいける距離じゃない。 離れていることが、こんなに寂しいなんて、いままで感じたことがなかった。 旅行から帰ってすぐ、逢理は父親に車を貸して欲しいと頼んだ。 父親は驚いて、その理由を尋ねた。 逢理は、ごまかさずに答えた。 「奏大に会いに行くの」 父親は奏大の両親とも顔見知りで、奏大がどこで何をしているか、知っていたようだった。 「いつ帰ってくるつもりだ? 向こうに迷惑がかかるぞ」 「迷惑はかけない。顔を見るだけでいいの」 「逢、お前……」 「ほら、私たちずっと離れたことなかったし、なんか、相方がいないと寂しいし、元気にやってんのかってちょっとカツを入れてやんなくちゃ……」 逢理が無理やり作った理由を並べていると、父親が車のキーを出した。 「まあ、ナビがついてるから、お前でも大丈夫だろう。とにかく月曜の出勤に車を使うから、それまでには必ず帰って来いよ」 「うん。ありがとう」 それは、金曜の夜、夏祭りの前日だった。 近くの小学校の校庭は、もう夏祭りの飾りつけが済んでいた。 赤い提灯がぶら下がるその光景を見ながら、逢理は車を止めた。 逢理は時計を確認した。10時。奏大に電話をかけても、多分大丈夫な時間。 コールを聞く前に、電話が繋がった。 『はい』 いつもの奏大の声だった。 「奏大、明日は休み?」 『いやー、昼から出勤かな』 「そうか」 逢理は少しだけためらったが、もう後には引けなかった。 「あのね、奏大」 『うん、何? あれ? 今、車なの?』 ナビが目的地を入力するようアナウンスしている。その音声が奏大に聞こえたのだろう。 それなら、話が早い。 「あのね」 『うん』 「今から行くよ」 『うん。どこに?』 奏大は不思議そうに尋ねた。 「住所、教えて」 『え?』 逢理はそっと入力を始めた。福島県、そして……。 奏大はしばらく沈黙していたが、口を開いた。 『待って。もしかして、ここへ来るつもり?』 「そうだよ」 『どうして?』 「どうしてって……」 逢理は思わず目を閉じた。 「逢いたいから。めちゃくちゃ、逢いたい……」 ため息のように告げた言葉は、奏大にちゃんと伝わったのだろうか。逢理はどうか伝わっていますようにと祈った。でなければ、これ以上は、言葉が見つからない。 電話の向こうから、ガサガサ、ドタンバタンという音が聞こえ、奏大の声が聞こえなかった。 「奏大?」 『え、何?』 「聞こえた? ちゃんと聞いてくれた?」 逢理は泣きたくなるような気持ちで、奏大を責めた。 『あ、ああ、聞こえた』 相変わらず、ドスン、ゴトンというような雑音が絶えない。 「じゃあ、住所、教えて」 『いや……』 奏大は口ごもり、また雑音が酷くなった。 『ゴメン、2分後にかけ直す』 逢理が車の中で、長い2分間を待っていると、奏大から着信があった。 「奏大?」 『うん。俺もそっち向かうわ』 「え?」 『伯父さんに車借りたから』 逢理は驚いて、とっさに言葉を失くしていた。 『俺も逢いたいから。ずっとずうっと、逢いたかったから』 |
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