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| 「誰よりも、そばにいる」 (5)応援 奏大は一塁側にある、公園のベンチに、立ち上がって応援するハイテンションな逢理を横目で見ては、笑いをかみ殺していた。 水曜日。夕方の陽光がまぶしくて、キャップを深く被った。 奏大の視界にはバッターボックスで構える佐伯さんとキャッチャーの田上さんが入っていた。しかし、即席で出来上がった応援席がうるさい。約一名、叫んでいる。 「そーたぁ! がんばれー、ミスすんなー!」 サークルの15人に加えてギャラリーから選んだ適当な人を加えて、18人として9人ずつの敵味方を作り、ゲームをする。もうそのへんはすごくいい加減だ。小学生が入ったり、敵と味方が雰囲気で入れ替わったり、どっちかが大量点を入れた回には、負けているチームのストライクゾーンがものすごく狭くなって、フォアボールが続出してまた大量点となったりする。 これを、野球を愛する人が見たら、スポーツを冒涜するなと怒るだろう。 しかし、この春から3年生になって、サークルの主導権を握ってしまった奏大に言わせれば、スポーツであろうとなかろうと、楽しければいいのである。 どこにでもあるデザインのキャップと、サークルに人が増えるたびに色がバラバラになって統一感が無くなっていくジャージが、ユニフォームだった。スパイクはスニーカーで代用し、ヘルメットは数個あるだけ。グラブやミットだけは一応揃っている。 低予算で運営し、さらに飲み会にも予算を捻出しているために、完全なる草野球と化している。 急に、キャッチャーの田上さんがマウンド上の藤村さんに走り寄った。 守っていたプレイヤーは驚いてマウンドに駆けてきた。 奏大も三塁から彼らの元に歩いてきた。しかし、緊迫した場面でもなく、もとよりタイムをとってまで伝達すべきことがあるほど集中してプレーしていないのだから、と気楽に構えていた。 「応援、うるさいんだけど」 田上さんが苦い顔で笑った。 もちろん、奏大を見て、その目は訴えてくる。 「なんだよ、応援があったほうが、活気があっていいじゃんか」 言い返す奏大も目が泳いでいる。 「個人的な応援は、せめて打席に立ったときとかにしてくれないと」 「そうよね、ゲーム中ずーっと赤沢くんへの声援しか聞こえないんじゃ、ゲンナリするわ」 このチームは半数以上が女性なので、そういうことには、厳しいようである。 「いや、せっかく応援してもらってるのに……」 「チームの士気が下がるわ」 「士気って……そんなすごいチームじゃないだろ?」 奏大は困りながら、チラと逢理を見た。 逢理は奏大の視線を受けると、その意味がわかったらしく、立ち上がっていたベンチにゆっくりと腰を下ろした。 ライトの中鳥が逢理の態度に気づいたらしく、 「お、奏大のカノジョ、静かになったぞ」 と、奏大をつついた。 「おい、まてよ」 奏大は中鳥を前に真剣なまなざしで訴えた。 「カノジョじゃないから」 奏大のはっきりとした言い方に、皆は騒然となった。 「え、違うのー?」 彼らはにやけ笑いで問いかけた。 「違うって、何度も言ってるだろー」 奏大は地団太を踏みそうな勢いで、言い返した。 「後輩? 幼馴染? そんなの言い訳よー」 ファーストの江里口さんが疑わしげに奏大を見る。 「とにかく、公私混同は困るわ」 ピッチャーの藤村さんが言う。 「だから、そーゆー規律正しいチームじゃねーだろって!」 一塁側の即席応援席では、ベンチに座った逢理がつまらなさそうに、その状況を見ていた。 逢理の隣に立っていた男子学生が腕を組んで、逢理に聞こえるように言った。 「なんだかタイムが長いなー。なんの話だ?」 逢理は、うつむいて立ち上がった。もう帰ろうと思った。 せっかく応援してるのに、邪魔になるなら、もう二度とくるもんか。そんなふうにまで考えて、1つため息をついた。 すると、傍にいたその男子学生が、逢理に声をかけてきた。 「カレシ、でしょ? あそこで顔を真っ赤にしてるサード」 え?と驚いて顔をあげると、その人は紛れもなく奏大を差していた。 「違うよ。単なる知り合い」 逢理はそう言って、カバンを持ってその場を去ろうとすると、急に肩を掴まれた。 「俺、法学部の2年の柴崎だけど、君、文学部の瀬戸さんだよね」 逢理は驚いて、その男子学生を振り返った。 |
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