good morning

素材提供:NOION様


<<home  <<Text  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

「誰よりも、そばにいる」

(6)気になる

「ごめんね、驚いたろ」
 柴崎優介(しばざき・ゆうすけ)は、申し訳なさそうな目をして逢理を見つめた。
 逢理は西日で茶色に透けた瞳で、眩しそうに柴崎を見てから、少しうつむいた。

 逢理は自転車を押し、公園の外周を、柴崎と並んで歩いていた。
「どうして私のことを?」
 逢理は、横にいる柴崎の方は見ずに、尋ねた。
 柴崎もまっすぐに前を向いたまま、ゆっくり話し始めた。
「俺、4人兄弟の末っ子なんだ。で、一番上の兄貴が、瀬戸真彦さんと同級で……」
「お兄ちゃんと?」
 逢理は驚いて足を止めた。
「うん。部活とかバイトとか一緒だったらしいよ」
「そう……」
「好きなコも一緒だったらしくて、それでも真彦さん、めっちゃいい人で、俺の兄貴とそのコを取り持とうとしてくれたり……」
 お兄ちゃんに好きな人がいたんだ。そう思うと、逢理は胸がきゅうっと痛くなった。

「もっともっと、話はあるんだけど、なんか、俺アガッてるなー」
 そう言うと、柴崎は頭を掻いた。
 逢理は柴崎の照れた様子を見て、少し笑顔になった。夕日のせいか、柴崎は顔が赤い。
「ありがと。教えてくれて」
「うん。いつかちゃんと話がしたいって気になってたんだ。今日はごめんね、突然で」
「いいよー。うれしかった」
 逢理が笑いかけると、柴崎も笑った。
「兄貴が少し真彦さんの写真持ってるんだ。見る?」
「うん! 見る!」
 逢理は思わずその場でつま先立ちした。
「わかった。じゃあ、また今度もって来るよ。えっと、どうやって連絡したらいいかな……」
「それじゃあ……」



 奏大は急に姿を消した逢理のことが気になっていた。彼は二度もエラーをして、皆に大笑いされていた。
 セカンドの棚田がタイムを取って、奏大のいる三塁付近に駆け寄ってきた。
「おい、応援がないとチョーシ出ねえのかぁ?」
「そーゆーんじゃねーよ」
 奏大はしゅんとしてうなだれた。
「おまえ、高校じゃあレギュラーだったんだろ? 次エラーしたら、マジでキャプテンの座、下ろすよ」
「そんなことゆーなよ! 楽しくやろーよ、ね」
 奏大は苦笑いして棚田を見た。
 しかし棚田はニヤリともせず、真顔でいい放った。
「そういえば、お前のカノジョ、さっき公園出てった時、男と一緒だったぞ」
「え!」
 奏大は目を大きく開けて、棚田に掴みかかった。
「いいか、棚田。カノジョじゃないんだ。だけど、男って、なんだ?」
 その迫力に圧倒されながら、棚田は言った。
「男って、男だよ。てーか、カノジョじゃねーなら、どーでもいいはずじゃね?」
「どーでもよくねーよ!」
 大きな声がグランドに響き渡った。
 チーム全員、敵も味方も、皆、奏大を見た。
 奏大はグラブを脱いで、棚田に渡した。
「悪いけど、俺、今日帰るわ」
「ええ?!」
 棚田は驚いて、呆然と奏大の顔を見つめた。
「ゲーム中に何言ってんの。お前抜けると、ゲームできねぇじゃん」
「あそこで砂遊びしてる、チビにでも入ってもらえ。じゃーな」
「おいおい!!」
 奏大はキャッチャーの後ろあたりに作られた、ベンチの代わりの荷物置き場に行くと、自分の荷物を担いでそそくさと公園を後にした。
 その場に残されたチームのメンバーたちは、互いに顔を見合わせていた。

 奏大は公園の外に止めておいた自転車に乗って、全速力で走り出した。

<<Home  <<Text  <<Top  Next>>