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| 「誰よりも、そばにいる」 (7)聞きたくて、言えなくて 奏大の自転車は、西日に向かって走っていた。 家に帰るなら、こっちの方角だと、迷わずペダルを踏んだ。 逢理の家と、奏大の家は近い。そして、大学との距離も1キロ弱だ。その間に、きっと追いつくはずだ、と奏大は信じていた。 間もなく、曲がり角にさしかかり、そこに二つの人影を発見した。 奏大は、思わず自転車を止めた。 自転車には乗らずに、押す形で脇に立っている逢理と、その傍に立つ男の姿が見えた。 男、そうだな、多分ウチの学生か。 奏大は、5分、その場で待っていた。 二人は話を終え、なにやらメモのようなものを取り交わし、男だけが大学の方向、つまり逢理の自転車の向きとは逆の方向へ歩いて行った。バイバイと、さも仲よさそうに、別れ際、逢理の笑顔が見られた。 逢理が一人で自転車に乗って行こうとしたので、奏大は急いで後を追いかけた。そしてそのままぐんぐんスピードを上げて、逢理の自転車を追い抜いて行った。 「奏大?」 逢理の声が聞こえて、十数メートル先を行く奏大は、ようやく自転車を止めた。 自転車を止めたが、奏大は、逢理を振り返ろうとはしなかった。逢理の自転車が近づく音がする。 「野球はどうしたの? もう帰るの?」 逢理の声が近くに聞こえるようになると、奏大は大声で言った。 「お前んとこのコンビニ、新しい弁当入った?」 逢理は突然言われて、思わず瞬きしてその言葉の意味を推し量ろうとしていた。 「弁当?」 「あれ、あれ、うまいよなー。牛すき焼き弁当。俺ぁ、あれが好きだな。でもあんまりカロリーとってちゃーデブるからなー」 奏大はさっきの男子学生が、ほっそりとした、妙にオシャレな風貌だったのを思い出していた。 逢理は、柴崎のことを振り返った。 もう、小さくなってしまって姿は見えない。 「奏大?」 「え、なに?」 逢理は奏大のそばまでやってきて、並んで自転車を押して歩いた。 それでも、奏大は、振り返ろうとしないで硬直したように前を向き続けていた。 「お弁当ね、二つ新しいのが入ったよ。一つはおいしい。実食済み〜」 逢理の声は明るかった。対照的に、奏大の声は低く淀んでいた。 「あ、……そうか。よし、今度それ食おうかな」 逢理は奏大の様子を伺うように、チラッと見てから言った。 「さっきね」 「え?」 「さっきね」 「……うん」 奏大の声が小さくなった。 「さっき、大学の人が、私に声をかけてきたの」 「あ……うん……そか」 「私のお兄ちゃんのことを知ってる人と会えそうなんだ」 「そうか……よかったなぁ……。で、相手は誰?」 「法学部二年の、えっと誰だっけ。あ、柴崎くん」 逢理がメモを取り出したのを、チラと横目で確認すると苦い顔をした。 「番号、交換したんだな」 「え? うん。だめ?」 「いや」 奏大はまた、前を向いた。 小さいため息が、無意識のうちに漏れていた。 |
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