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| 「誰よりも、そばにいる」 (8)傍目 木曜、逢理は真面目に講義を受けた。早速昨日の夜に柴崎からメールがあり、明日、つまり今日、お昼に食堂辺りで会おうということになっていた。 木々の緑は少しずつ色濃くなり、それに伴って漏れる光がまぶしく強くなってきているようだ。 ガラス窓を通して、暖かいというよりも、やや暑い日差しが講義室内に入っていた。 温室状態になって、逢理は一枚カーディガンを脱いで、薄いカットソーだけになった。 モグモグとしたしゃべり方の講師が、黒板になにやら文字を書き続けている。テキストを開いてはいるが、あまり講義の内容は耳に入らない逢理だった。 隣に座っている、高校からの友人の佑美(ゆみ)は、さっきからニヤニヤと逢理を見つめている。 「なによ」 逢理は半分笑いをこらえながら、その友人の視線に応えた。 佑美は余計に笑顔になって、逢理の傍ににじり寄った。長い机をすべるようにやってきた佑美に、逢理はなんだか嫌な予感を感じた。 「昨日、みーちゃった」 「え?」 逢理はちょっと困った顔で、佑美の顔を見た。 「大学の近くの、公園のそばで、自転車押してたよね、逢理」 「う、うん」 「二人で仲良く!」 「あ、彼は……」 逢理は小さな声で、反論しようと口を開いた。柴崎優介は逢理にとって、兄つながりの関係なのだと。しかし、逢理に言う間を与えず、佑美がうっとりとした目つきでつぶやいた。 「奏大さんと幼馴染だなんて、うらやましいなー」 「え?」 なんだ、見られたのは奏大と一緒のところだったのか、と逢理は思った。 「顔はイケてるしー、体格も鍛えててチョースキだし、背は高いし、脚は長いし…」 逢理はだんだん笑いがこみ上げてきた。 「なにそれ、ルックスだけじゃん」 すると、佑美は猛然と言い返した。 「だって、中身はっ!!」 「中身はサイアク?」 逢理は笑いをこらえるのに必死だった。 「ちがうわよ」 佑美は唇を尖らせた。 逢理は奏大のこととなると、ずいぶん気が楽になって、軽口を叩いた。 「中身は、そーよねー。なんか若々しさが無いっていうか……」 そう言う逢理に対して、佑美は首を振った。 「優しいし、いい人。でも、1つだけ問題点がある!」 「なに?」 逢理は不思議そうに佑美を見た。 佑美は逢理のおでこを人差し指でつんと押した。 「あんたのことしか、頭に無いってこと。それだけがブーって感じ」 佑美は言った。 「逢理だってさー。高校のとき、やたら男子からモテモテだったのに、全部断ってたじゃん。あれって、奏大さんがいたせいでしょ?」 逢理はうつむいた。 「えー、ちがうよ。付き合いたいって思う人がいなかっただけだよ」 「じゃあさー、奏大さんとは付き合わないの?」 そんな風に佑美に聞かれて、逢理は目を丸くした。 「ごめーん。そんなこと、考えたこともなかった」 佑美は逢理の言葉に、目を細めた。 逢理の言葉には、嘘の臭いがプンプンする、と佑美は思った。 「図書館でさ、写真見る?」 そう言われて、逢理は、はっと顔をあげた。 向かい側に座ってコーヒーを飲んでいる柴崎が、彼女の表情に、少し驚いていた。 「ご、ごめん、ぼーっとしてた」 「あ、いいよいいよ」 食堂の外のテラスで紅茶を飲んでいた逢理は、柴崎と一緒だったことをすっかり忘れていた。頭の中は午前の授業で言われた、佑美の言葉ばかりだった。 『じゃあさー、奏大さんとは付き合わないの?』 逢理は自然に顔が赤くなっていた。 「妹くらいにしか、思われてないんだから」 柴崎が、「え、何?」と聞き返したところで、逢理の耳には入っていなかった。 心地よい、そよ風が吹いていた。 逢理は柴崎と笑いながら図書館へ向かった。明日の金曜が奏大たちのサークルの飲み会の日だということを、逢理は、ぼんやりと考えるともなく考えていた。 |
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