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| 「誰よりも、そばにいる」 (9)自覚 こくり、と唾を飲み込んで、その光景を見つめて棒立ちになっていたのは、赤沢奏大だった。 それは昼休み、ちょっと遅れて走ってきて、食堂に飛び込もうとしたときのこと。 ちょうど逢理の姿を見つけて声をかけようと思った。 しかし、テラスで何か飲んでいた逢理には、連れがいた。 昨日、公園で一緒にいた男だ。 ほっそりとしていて、軽いウェーブのかかった髪。眼鏡をしていて知的な雰囲気。優しそうな目でよく笑う。少しおとなしい感じの男だ。法学の柴崎とかいったっけ。 自然と、奏大は逢理の傍に行けずに、その場に足を止めたのだ。 二人は仲よさそうで、逢理は嬉しそうな笑顔を何度も見せていた。 奏大に対して見せる表情とは大きな違いだった。 奏大の知る逢理の表情は、無愛想だったり、茶化したり、本気でバカにして笑ったり、すましていたり。そんな程度だ。 あの男と一緒にいる逢理を見ると、逢理も普通の女の子なんだなと奏大は思った。 かわいい目で相手を見つめる。指も、首の角度も、見え隠れする舌でさえ、かわいらしいしぐさを見せ付けているように感じられる。 奏大は、逢理がずいぶん前から男子の中でのモテ女ランキングに上位入賞しているのを知っていた。たぶん、中学生のころから。逢理は、注目度の高い女子の一人だった。 こういう風に遠巻きに彼女を見てみると、やはり、きれいな子だ。 太っているわけでもなくガリガリでもない、ほどよいスタイルに、ネコ系の小顔で、過重な運動をしていないせいで余計な筋肉がついていないスウッとした脚線美。そういえば、いつもジーパンなのに、なぜか今日はスカートだ。それは意図的なのか、と奏大は首をひねった。 大体、その男とは、お兄さんの話で知り合った関係なんであって、それほど親しげに、まるでカップルみたいに微笑みあうっていうのは、どういうことなんだ。何か、ちょっと発展してないか? 奏大はなんだか、少し気分が悪くなってきた。 胃の辺りがムカムカするのだ。昼飯を食べる気分が、どこかへ飛んでいってしまった。 奏大の目の前を、逢理と柴崎が連れ立って歩いてゆく。どこへ行くのかはわからない。追いかけるわけにはいかない。 奏大はまた、唾を飲み込んだ。何に緊張しているのかわからないが、体中に微震が走っている。 奏大は食堂の中に入り、誰もいないテーブルを見つけて、座り込んだ。 すると、BCのメンバーである、文学部3年生の田上さんと藤村さんが奏大を見つけてトレーを持ってやってきた。 「誰かと思ったら、赤沢くんかあ」 「ぅス」 奏大は田上さんに軽く目で挨拶した。 「どうしたの、暗い顔して」 藤村さんも奏大の隣にトレーを置き、カレーライスのにおいをプンプンさせて、言った。 藤村さんの向かいに田上さんが座っていた。 奏大は視線を落とした。 「今日、飲み会の日なのに、調子悪いの?」 田上さんに聞かれ、奏大はしょうがなく彼女を見つめた。 「別に……」 「やだー、赤沢くんらしくないじゃん。どうしたのー?」 藤村さんは奏大の肩をバンバンと叩いた。 奏大は手で肩をさすりながら、苦笑いをすると、大きなため息を吐いた。 田上さんと藤村さんは顔を見合わせて、奏大の様子に異変を感じたらしかった。 「大丈夫?」 「ああ」 ああ、と答えたものの、奏大は決して陰鬱な気分から解放はされなかった。 「みんなの頼れる先輩なんだからー。がんばってよ、キャプテン!」 「俺は先輩なのかなぁ」 奏大はつぶやいた。 田上さんと藤村さんは意味がわからず、奏大の顔を見つめた。 「先輩か、兄貴か……。それ以上になんて、どうせなれっこないんだよなぁ」 奏大はその夜の飲み会で、いつになく飲み続け、ひどく酔っ払った。 |
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