good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「五度目の正直」

(1)一度目

 僕は今までに面接で緊張したことは殆どなかった。
 なぜか、僕の見た目は人にいい印象を与えるらしく、どの企業でも面接まで行けば、合格は間違いなしだった。

 それがどうだろう。

 この面接では、とてもじゃないが、僕という人間を受け入れてもらえそうになかった。
 僕の隣には母、そして父が座る。
 反対隣に初対面のどこかのおばさんが座り、真向かいにいる面接官の様子を伺う。
 面接官は言った。
「もう、やめにしたいんですけど」


 僕はその面接官に嫌われたようだった。
 面接官の名は、松戸詩鶴(まつどしづる)。19歳の短大生。

 僕は、お見合いの席にいた。

 人生の面接で、目も見て貰えないという寂しい思いをした。


 実家に帰ってから、父や母が僕にやたらと気を遣っているのに気付いた。
 お見合いのことを、彼らは口にしなかった。
 だから、僕からわざと話題にした。
「松戸さん、きれいだったなあ」
 母は聞こえないそぶりで、キッチンに消え、父は苦笑いを浮かべながらテレビをつけた。
「あれくらいの子なら、いくらでもいるさ。洸太には、ちょっと若すぎたな」

 僕の名は三川洸太(みかわこうた)。24歳。
 初のお見合いで玉砕。
 でもいいんだ、なんて、ただの強がりだ。
 松戸詩鶴さんは、一輪挿しの花瓶に少しうなだれて微笑む花のように美しかった。
 一度だけ顔を見たきり、会話もなかったけれど、僕は彼女のことをしばらく忘れられなかった。



 仕事ではお客様はいつも女性だった。
 僕は化粧品会社のマーケティング部にいた。
 まだ二年半ほどのキャリアだが、おもしろいもので、女性の心理はたいていわかるというか、想像がつくようになった。

 女性の好みがわかってくると、女性に好かれるにはどうしたらいいか、それもなんとなくわかってきた。
 だから、とりたててイケメンでもないこの僕でも、努力すれば恋人を作ることはできた。
 現に、いままで、独り身が長かったことはあまりない。

 最後の彼女と別れて、ひと月。
 そろそろ恋人が欲しい気もする。
 だからといって、お見合いをしたのは間違いだった。
 まさか、そこで、報われない恋をするとは思ってもいなかったからだ。



 今日は新製品のサンプル(試供品)の配布開始の日だった。
 家々にポスティングし、路上で配り、大学の生協と提携して配布する。
 僕の担当は、お得意様に一足先に郵送されていたサンプルのアンケートを回収する係だった。
 会社で新製品説明会があり、上得意様は会場に来てくださり、アンケートをその場で回収する。
 

 会場は明るく、たくさんのスタッフが丁寧に接客をしている。その殆どが女性ばかりだった。社員もお客様も。
 仕事を始めた当初はむせてしまった、化粧品と香水の混濁した空気にも慣れた僕は、会場の隅で小さなテーブルの脇に立っていた。
 ひとりの女性が僕のそばにやってきて、言った。
「あの、アンケート用紙忘れたんです。ここで書けますか?」
「はい。こちらに」
 その人ははなから僕の顔など見ずに、テーブルに置かれたアンケート用紙を見ていた。
 でも、僕は、その人を見て、その人の目を見て接客するのが仕事だ。
 だから、そのとき僕の体が、動かなくなってしまったとしても、仕方のないことなんだ。

 その人は、花のような美しさと同時に、誰も寄せ付けないような気高さを持っているような気がした。
「こちらに……」
 僕の手は震えながら、一枚の紙を何度もすくい上げようとぎこちなく動いた。




 2 に続く

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