good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「五度目の正直」

(2)ニ度目

 その人は僕の無様な様子を見て、笑いをこらえながら、一瞥をくれた。
 気付かない。
 松戸さんは、僕を見ても、数日前のお見合いの相手だとは、気付いてくれなかった。

 僕は、屈辱に少し似た、寂しい思いをかかえて、なぜか微笑みを浮かべた。

 二度逢えた幸運を、僕はどう解釈したらいいんだろう。
 ありがとうと神様にお礼を言うべきなのか、なぜなんだと呪いの言葉を吐くべきか、迷いながら、ただ彼女の顔を見つめた。

 手は、ようやくいつもの調子を取り戻し、丁重に紙とペンを持って、松戸さんに渡した。
「ありがとう」
 彼女はそれらを持って、スタッフの待つテーブルへと帰ろうとしていた。
「あの」
 無意識に、僕は彼女を呼び止めていた。

 どうするんだ。何を言うつもりなんだ。
 彼女は僕のことなんか憶えてはいないんだ。
 また、冷たい言葉を浴びたいわけじゃないくせに。ただ、二度目の幸運に、僕は、どうしようもないくらいに感謝していた。

「はい?」
 松戸さんはソメイヨシノの花びらのように、透き通った肌をしていた。
 瞳が僕をとらえると、不思議そうにくるくる動いた。
 きれいで、無垢で、そして、罪深い人だった。きっと一目ぼれをした男は僕だけじゃないはずだ。

「先日はどうもありがとうございました」
 僕は丁寧に頭を下げた。少し嫌味かとも思えるくらいに。
 精一杯の抵抗だった。僕が、僕に対する、抵抗。

 彼女はきょとんとして、僕を数秒見つめた。彼女の記憶のどこかに、僕という人は存在していたんだろうか。
 彼女は曖昧に笑って、頭を下げた。
「こちらこそ」

 小さな声だった。

 やっぱり僕なんか、覚えてないんだ。
 そうさ、見た目よくあるタイプだ。

 でも、僕は、どうしようもなく、彼女の中に入っていきたいと思う。彼女の記憶に、彼女の心に。

 これは、熱病じゃなく、本能なんだ。




 そして、ひと月ほど経ったある日、僕は三度目の幸運を手に入れた。






 3 に続く

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