この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています
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| 「五度目の正直」 (4)四度目 喉元まで出かかった言葉を、僕は笑顔で飲み込んだ。 その時、松戸さんと、なんとなくいい雰囲気でお茶を飲んでいたのに、僕の想いの丈をぶつけ、無理やり次の約束を取り付けて、全てを失くしたくなかった。 でも、何も言わなければ、彼女と次に逢う保証は無い。 それでも、空を行く小鳥を捕まえるような、無茶をしてはいけないんだと、自分に言い聞かせた。 それで、よかったんだろうか。 僕の気持ちは行き場を失っても、なお、膨張していった。 しかし、四度目の偶然が訪れたのは、それから間もないお盆休みの時期だった。 僕は地元の友人たちと居酒屋で盛り上がっていた。 竹下と前田、木村という、中学時代の友人たちだった。僕らはそれぞれの近況を語り、またフットサルをやらないかとか、吉田が結婚したらしいよとか、正月に集まるときには何かしようぜなどと時間を忘れて笑いあった。 「明日さあ、時間あるやつ、いる?」 木村が皆の顔を見回して聞いてきた。 僕は、何の予定もいれていなかったので、すぐさまその話に乗った。 「時間あるよ。何、なんかあるの?」 木村は困った顔で説明した。 「付き合ってる子がいるんだけどね、その子が海に行きたいって言うんだ」 「なんだ」 僕は木村の頭を軽く押した。突っ込まれて、木村は上体を揺らせた。 「それじゃ、僕はお邪魔じゃないか」 「いや、違うんだ」 木村は言った。 カノジョが友達を連れてくるらしい。その友達というのが、ひどく落ち込んでいて、元気付けたいという。 「で、誰かお相手してくれないかなと」 僕は竹下と前田の顔を見た。 2人は首を横に振った。都合が悪いらしい。 僕は困りながらつぶやいた。 「僕もあんまり、女の子のご機嫌を取るような心境じゃないんだけどなあ」 「女の扱いが一番うまいのは、この中じゃおまえだ」 僕はうーんとうなった。 翌日、木村の家まで車で行くと、玄関先には木村とそのカノジョらしい人が立っていた。 「いい車乗ってるなあ。給料いいの?」 木村が僕のゴルフGTXを見て、子供のようにはしゃいだ。 カノジョと顔を見合わせ、なんだか新車試乗を楽しむ夫婦のような雰囲気をかもし出している。 「あ、湯沢さん。こいつは三川」 カノジョが僕にペコリと頭を下げた。 木村には勿体無い、かわいらしくておとなしい子だった。 「あの、友達、もうすぐ来ますから」 湯沢さんはそう言ってから、何か木村に耳打ちした。なんだろう、とても気になった。 湯沢さんが、約束の11時を20分回ったところで、ようやくその友達に電話を入れた。今日は僕の車で行こうと木村が言い出したので、仕方なくエンジンをかけていたのだが、もうそれも数分前に切ってしまった。 「ごめんね。もうすぐくるから。なんかね、駅でヘンな人に絡まれちゃったらしくて。でも、駅員さんに助けてもらったらしいから、もう大丈夫だから」 湯沢さんは、心配そうな顔のまま、携帯を見つめていた。 木村も神妙な顔で、 「あー。わかるわ。あの子、なんかそういうめぐり合わせだよなあ」 とつぶやいた。 湯沢さんは木村を肘でつついて、怒って言った。 「ひどい。そんな風に、言うことないでしょ?」 僕は2人のやり取りを見ながら、間に入っていいものかどうか迷いながら、それでも聞いてみた。 「あのー、聞いてもいいかな。その友達って、どんな子」 僕が特に意味もなく尋ねた言葉に、湯沢さんは木村の様子を伺いながら、話した。 「あのね、付き合っていた人と別れて二ヶ月くらい経つんだけど、まだ、ひきずってるの。元気出してあげたいの」 「あー、そうなんだ」 僕はよくある話だと思い、聞き流そうとしていた。 しかし、湯沢さんは続けた。 「その彼氏が、DV酷くて、すっごいサイテーな男だったの。やっと別れたのに、時々、まだ詩鶴ちゃんに逢いに来るんだって」 僕は、湯沢さんと木村の顔を見た。 今、なんて言った? 誰って? 「詩鶴さん?」 僕が聞き返したことに、2人は不思議そうな顔のまま、頷いた。 そのとき、彼女が現れた。急いで走ってきたのか、息を切らして、顔を紅潮させ、僕らの元にやってきた。 松戸詩鶴さんは、湯沢さん、そして木村の顔を見て謝りながら、僕の顔を見て、目を見開いた。 「こんにちは」 僕は軽く会釈した。 逢えて嬉しかった。こんな偶然が重なることは、少ない。 でも、僕は君が抱えているモノを知らずに、ただ表面だけを見ていたんだと気付いた。 詩鶴さんは、少しして、とても柔らかな表情になり、こんにちは、と返してくれた。 いままで僕が抱いていた、憧れにも近い想いは、まだ、僕の中に大きく存在している。 でも、少しだけ違う感情が芽生えていた。 君を守りたい。 できるなら。 君が許してくれるなら。 5 に続く |
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