<<home <<Text >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
| 「はっぴぃ☆らっきぃ☆」 (1) 私は暮れも押し迫った空港の到着ロビーで、人の波に酔いそうになって立っていた。 私は遠藤未散(えんどうみちる)21歳。 そうまだ若々しい、未来に希望あふれる21歳。まだ、21歳です! 東京の大学に在学していて、お盆以来の帰省となった。 関西だわ、とは思う。 だって、みんな、ものすごい急ぎ足だし、さっきから何回足を踏まれたかな。 とろとろしている、私が悪いとばかりに、ドンドンと肩やひじにぶつかられちゃう。 どうせ、私はのろまです。 家に帰ると思うと、そののろま加減が、もっとグレードアップするんですよっ! お盆の1週間も最悪の1週間だった。 あのとき、胸に刻んだのよ。カレシを作るまでは、二度と実家に帰るまいと。 さんざんの、お見合い三昧で、疲れただけの1週間。 今度実家に戻るときは、素敵なカレシをつれて、お姉ちゃんやお祖母ちゃんに、何も言わせないわ! そう誓ったんだけど…。 今ここが、最後のチャンス。 恋の神様、私にカレシと出会う、素敵な偶然を下さい!! でも、見渡す限り、家族連れ。 若い男の人、一人って、なかなかいないのよね。 小さなリュック一つで出てきた、あの人、いい感じじゃない? あ、妻子が迎えに来てる…。 トイレから出てきたあの人、いいわ〜。サラリーマンって感じのスーツ姿が素敵! あら、 5人も連れ立って、トイレ行かなくたっていいんじゃないの? 5人かあ。ちょっとゲットは難しいなあ。 カツン、という大きな金属の音が数回響いたかと思うと、私の足元に、携帯電話が滑ってきた。 人ごみの中、誰かが落とした携帯を、いろんな人が無意識に足で蹴ったんだわ。 目の前の雑踏で、そうとしか考えられなかった。 オレンジ色の軽い携帯電話を拾い上げると、周りを見渡した。 二つ折りの薄い形だが、開いていて、何か音が聞こえ、振動となって手に伝わった。 「あ、あれ、話してる途中?」 思わずつぶやいて、そっと耳を当ててみると、甲高い女性の声がした。 『けいたー、女の子の声がきこえたけどー? そばに彼女がいるんかいな? 何か言いいな、けいたー!』 これ以上無いくらいの大声。 あー、実家の母親を思い出す〜。 そんな私の目の前に、ふとスーツ姿の男性が現れた。 「それ、オレの。」 「あ、…どうぞ。」 私は緊張しながら、耳に当てていた携帯電話を差し出した。 だって。 見たところ、独りきり。 若くて背が高くて、サラリーマン風。 ちょっとイイカンジに、日本風の顔。はっきり言って好み。 「え? ちゃうちゃう、携帯落としただけや。」 私の目の前、携帯電話で話すその声も、低くて甘い。 いいなあ、こんな人がカレシだったら…。 そう思いながらぼーっと相手を見ていたら、相手と目が合った。 くるりと背を向けられた。 ショック。 まずいわ。頭の弱い子と思われたかも。 でも、…。 私は辺りを見回した。 あんなに人が溢れていたロビーが、もう、東京からの便の乗客が降りきってしまったみたいで、 遠くまで見通せるほど、閑散としていた。 しまった。 もう探す余裕が無い。 チャンスは、もう、…この人しかいない。 この人に頼むしか…! 「ええ? オヤジ危篤なん?」 急にその人が大声を上げた。 「わかった、すぐ行く! どこの病院?」 手で何か書くようなフリをするので、ペンと紙を渡してあげた。 彼は、顔の真ん中で片手の掌を立てて、ありがとうを示した。 見ていると、壁に紙を当て、なにやら地名を書き出した。 そうしてすぐに電話を切った。 まっしぐらにロビーを出ようとする彼に、私はすかさず声をかけた。 「あの…」 「え、あ。はい? ……あ、ペン…ごめん。ありがとう。」 彼は私にペンを返してくれた。 「あの、違うんです。お願いが…。」 「え? 何? 今、急いでんねんけど…。あ…。」 彼は何か思い当たったらしく、私の顔を見て、足を止めた。 「そうだ、オレもお願いがある。でも、こんな非常識なお願いって、してもいいもんかなあ…。」 「いいですよ。だって私も非常識なお願いしたかったんですもん。」 「そうなん? じゃ。」 彼は私の手を取って、タクシーに乗り込んだ。 タクシーの中、彼は言った。 「オレ、菅野恵太(かんのけいた)。オレの彼女になって。」 私は答えた。 「はいっ、もちろん!」 これ以上無いほど、ラッキー。 |
|---|