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| 「はっぴぃ☆らっきぃ☆」 (11) 私は新谷酒店のライトバンの後部座席に一人で座っていた。 「連れ去らんといてよ…」 私の顔をバックミラーでチラと見た運転中の椙矢は、ニヤっと笑って、 「うわ、めっちゃ唇とんがっとる。」 と茶化した。 そら、とんがるわ。 USJに行くような気分やないのにっ!! 「それで、あの女、なんやのん?」 美郷お姉ちゃんが、ムッとした口調で助手席で前を向いたまま言う。 「あー、あの人ね。」 私は説明するのもうっとおしい気がした。 「東京の彼女…」 はぁっとため息を吐いて、それだけ言った。 「東京の彼女って、あんた、フタマタかけられてたん?」 あっ、そうか。 お姉ちゃんも事情を知らんねんやったわ。 まずい。 「あ、あー。 どっちかというと、うちの方が、後なんよね。」 「そういえば、付き合いだしたのは最近やって言ってたねえ。」 「そうそう。」 美郷お姉ちゃんは低い声でうなった。 「じゃあ、あんた、騙されたん?」 「だ、騙されたっていうか、なんていうか、うちの方が強引だったというか、 こっちから好きになったというか……」 私の声はぼそぼそと小さくなっていった。 正直に答えるべきなんだろうけど、どうせ明日には、菅野さん、東京へ帰ってしまうし。 でも、負けたくない。 いまさら、ニセモノの恋人やからって、それだけで引き下がれる感情やないもん。 来海さんより、絶対、私の方が菅野さんのこと好きなはず。 きっと。 「あれ? 穂波ちゃんは?」 私の問いに、お姉ちゃんは爆笑した。 「当然のように、菅野さんの車の助手席に、ジュニアシート敷いて、座ってたで。」 「え? じゃあ、来海さんは?」 「後ろの座席なんちゃう?」 フフフ。 よかった。後ろから付いてくる車の中、菅野さんと来海さんは二人きりじゃないんだ。 かなり安心。 USJに着いた。 大人5人と子供一人。菅野さんを囲んで気まずい雰囲気が流れるのかといえば、 実はそうではない。 大好きなキャラクターのショップを見つけては、はしゃぐ穂波ちゃんと、来海さん。 やたらに菅野さんに話し掛けて、二人の世界を作ってしまう、椙矢。 穂波ちゃんの行動に目が離せない美郷お姉ちゃん。 結局、私ひとり、ぽつんとみんなの後からついてゆく、そんな集団だった。 なんとかザ・ライドという乗り物に乗ろうということにはなったが、元旦のUSJは人だらけで、 待ち時間が長かった。 しかも水にぬれるらしい。 「やめとこうよぉ。」 しり込みする私に対して、来海さんは 「行こう、ケイちゃん!」 と、菅野さんを引き連れて、二人で人ごみの中に消えようとした。 「あ…待ってよ!」 思わず、私は菅野さんの腕を、ぎゅっと握り締めた。 そして、私と来海さんに挟まれて、 菅野さんはおとなしく歩いていた。 「ちょっと〜、どういうつもりなの〜? どうして着いてくるのよ!」 と、来海さん。 「どうしてって、……」 私はまた、唇を尖らせた。 「か、カノジョだもん……」 とにかく負けるもんかっ。 「何言ってんの? カノジョは私なの〜。どっか行きなさい。 ケイちゃん、なんとか言ってよ〜!」 菅野さんは困り果てて、言葉に詰まりながら言った。 「ま、まあ、二人とも落ち着いて…」 「落ち着いてー、じゃないわよ。」 「私は落ち着いてますっ!」 「来海、年上なんだしさ、もうちょっと仲良くできないかな…」 「できるわけないでしょ〜? 何考えてんのよ〜。ケイちゃん。」 「できるわけないです。」 「はっきり言ってあげなさいよ〜。この勘違い京都娘に〜。」 私に向かってニヤっと笑い、来海さんは菅野さんにべったりと張り付いた。 「はっきり言ってください。菅野さんの本当の気持ち。 それなら私も納得できます。」 私も、菅野さんの顔を上目遣いに睨み付けた。 「はっきりって…。はっきり言うと、オレは……。」 「オレは?」 「オレは?」 「オレの中で、一番大事な人は……」 「大事な人は?」 「大事な人は?」 菅野さんの背中を、ウッドペッカーがドンと押した。 菅野さんはドテッと私たち二人の目の前でコケた。 でも、私たちは助け起こすこともせずに、二人とも、しゃがんで、 菅野さんの顔の前に、自分たちの顔を持ってきた。 「大事な人はだ〜れ?」 「誰ですかっ!」 「穂波ちゃ…」 「逃げてる〜。」 「現実をしっかり見てください。」 倒れた男一名に、容赦なく攻める女二名。 「ケイちゃ〜ん!!」 「菅野さんっ!!」 そんな私たちの後ろで、なぜか菅野さんの声が聞こえた。 「相変わらず、おまえは、どんくさいなぁ。」 私も来海さんも、そして突っ伏したままの菅野さんまでもが、その声のする方を見た。 うわああ。 菅野さんだ。 菅野さんが二人いる。 「えっ、ケイちゃんが二人??」 「か、菅野さんが二人…」 私たちの目の前に立っている人は、まさしく菅野さんで、片手で女性の肩を抱きしめていた。 そう、菅野さんとそっくりな顔をした人。 違うのは、明らかに菅野さんよりも派手な服を着て、 どうも、ホストっぽいにおいがしてくる。 「…兄ちゃん…。」 菅野さんの口から、そんな言葉が漏れた。 え? この人が菅野さんのお兄さん? 行方知れずの留太さん? 本当に、そっくりやわ。 留太さんは女性から手を離すと、倒れた菅野さんに手を差し伸べた。 菅野さんは留太さんに助けられて、立ち上がった。 「兄ちゃん、生きてたんか…。」 「当たり前やろ。」 双子かと思うくらいにそっくりな兄弟に、留太さんの連れの女性も、目を丸くし、 私も言葉をなくしていた。 しかし、来海さんの口からは、微かに意外な言葉が漏れた。 「この人、かっこいい…!」 「ミナミにいるから、また来いや。親には内緒やぞ、ええな?」 留太さんは、菅野さんに名刺を一枚渡して、その場を去っていった。 私は菅野さんの側に行き、名刺を見た。店の名前が書いてある。 確かに、ホストなんやわ。 そいでもって、来海さんの言葉も頷けるくらい、ちょっと、カッコイイ。 あれ? そういえば来海さんは? その場にいたのは、私と菅野さんだけだった。 来海さんは、どこへ? |
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