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| 「はっぴぃ☆らっきぃ☆」 (13) 私と椙矢はお互い仁王立ちして、美郷お姉ちゃんを見つめた。 「な、なによ。」 美郷お姉ちゃんは私たちの冷め切った目を見て、戸惑っている。 「お姉ちゃん、ずーっと、椙矢はねぇっ……!」 私が言いかけると、椙矢が急に、ドカッと座り込んだ。 土下座してる! 「美郷が好きだ、結婚してくれ。」 おお〜、言ったな、椙矢。 目を丸くするお母さんとお婆ちゃんの存在、椙矢、忘れてるんとちゃう? あんぐりと口を開けて、椙矢を見つめる美郷お姉ちゃん。 「け、結婚?」 「好きだ。結婚してくれ。」 「誰?」 「だから、美郷やっちゅうねん!」 「悪質な冗談?」 「あほか! ぴゅ、ぴゅ、」 かわいそうな椙矢。 お姉ちゃんは首をかしげている。 「ぴゅ?」 「ぴゅあーな気持ちやろーが!!!」 「あっはっはっはっは!!!!!」 私は大爆笑してしまった。 ごめん椙矢。 椙矢が私の頭を掴んで、ヘッドロックを食らわせて来た。痛い〜っ! と、お姉ちゃんが私を助けてくれた。 「椙矢、やめたり。」 椙矢は黙って腕を緩めた。 お姉ちゃんに言うことなら、なんでも聞く椙矢。 そういえば、昔からずっとお姉ちゃんの言うことだけは、素直に聞いて反論しなかったな。 どっちが年上かわからんかったわ。 「答えを聞きたい。」 椙矢が静かに言った。 「今日は、オレ、家に帰る。ゆっくり考えてくれ。」 珍しい。 椙矢がジャンパーを着込んで立ち上がり、部屋を出ようとした。 「椙矢くん、帰るんか?」 お母さんが心配そうに声をかける。 椙矢は黙って頷いた。 「なぁ、ほんまなん、椙矢?」 美郷お姉ちゃんが、つぶやいた。 酷な一言やなあ。 しばらく椙矢は何も言えずに固まっていた。 「本気で答えてええの?」 「ええよ。オレも覚悟して言うたんやから。」 渋いな〜。 でも私は知ってる。 椙矢ちょっと、涙目になってるし〜。 あははははははは!!!!!!!! 椙矢、二枚目ぶったって、似合わへんねんから〜!! なぁんてさ。 ちょっとエライな〜って思ったりして。 ちょっとカッコイイやんって思ったりして。 私、明日、菅野さんと一緒に東京へ戻るって……、 それでええんかな。 菅野さんにはカノジョがいるのに。 菅野さんに好きって言われたけど、信じてええんかな。 自分の気持ちは、どうなんやろう。 そんな中途半端な状態のまま、付き合うことになったりしても、 ずっと平気でいられるんやろうか。 後悔せえへんやろうか。 朝、まだ6時だというのに、私は目が覚めた。 今日東京に帰るとは、家族に一言も言ってない。 私は布団の上に起き上がり、座ったまま、携帯電話を見つめた。 メールの画面で文字を打つ。 『ゴメンナサイ』 『やっぱり、今日は東京行きの便には乗りません。』 『菅野さんのこと、好きです。』 『もっと一緒にいたいって言ってくれたこと、嬉しかったです。』 『でも、くるみさんのことが、気になります。』 『菅野さんが、くるみさんのことをどう思っているのかが、気になります。』 ううん、本当は、 来海さんのことなんて、どうだっていい。 このまま、この気持ちのまま、 突っ走ってしまうのが、怖いだけで。 私は、メールを送信できないまま、明るい日差しを感じてカーテンを開けた。 今朝はいつも早起きのお姉ちゃんが起きて来ない。 昨日の告白がショックで眠れなかったのかな? しばらくして、私の部屋の襖がスーッと開いた。 美郷お姉ちゃんだった。 「未散、やっぱり起きてた?」 「うん。どうしたん?」 「今日、菅野さん東京へ戻るんやろ? 一緒に戻るんか?」 「え?」 美郷お姉ちゃんは大晦日の日、ドラッグストアへ行く時、 菅野さんから二日の日に東京へ帰るという話を聞いていたと言った。 私は答えられずに、ため息を飲み込んだ。 「東京戻るんやったら、そろそろ、帰る用意せなあかんやんか。」 お姉ちゃんにそう言われて、私はついにうつむいて、本当のことを話した。 菅野さんとは、ついこの間、空港で出会っただけで、 恋人同士でもなんでもないのだと。 でも、ほんの数日で、 好きになってしまった。 いや、多分、一目ぼれ。 そして、菅野さんにカノジョがいることは、わかっていたことだとも。 「やっぱりなぁ。なんとなく、ぎこちなかったもんな、あんたたち。」 お姉ちゃんには、隠し事は無理だと、今さらながら思った。 「まぁ、でも、色んな始まり方があって、ええと思うけど。」 それは、自分に何度も言い聞かせてきたことだった。 だから、お姉ちゃんがそう言ってくれると、本当に安心した。 でも、やっぱり、踏み切れない何かがあった。 「お姉ちゃんは、椙矢のこと、どうするん?」 「ええ?」 美郷お姉ちゃんが、柄にもなく、顔を赤くして目を見開いた。 「どうするって…」 「妹としても、ほら、椙矢がお義兄さんになるかどうかの瀬戸際やし。」 「そんな、茶化さんといてや。冗談で済む問題やないねんで。」 「わかってるよ。答え、出してあげな、椙矢可哀想やで。」 「まあね。」 お姉ちゃんはほんの少しだけ、視線を下げて考えていたが、 すぐに、さっと顔を上げて、私に言った。 「私らにはまだ時間があるから、大丈夫。問題は、あんたらやで。」 「今日は東京に戻らへん。」 私は言い切った。 朝食を食べながら、時計を見た。 8時だった。 私はまだ未送信のメールに、最後の一文を付け足した。 『また、いつか、会えたらいいなって思ってます。さようなら。』 そして、携帯電話が問いかける。 送信しますか? YES、OR、NO。 美郷お姉ちゃんがお母さんに言った。 「今日、未散、東京へ戻るんやって。」 「ええ? そうなんか? 未散。」 私は驚いて、首を横に降る。 「菅野さんが東京へ戻るんやから、着いていくべきやと思わへん?」 「そうなんかいな。一緒に戻らへんのは、喧嘩でもしてるんか?」 私は何も言えずにただ、首を横に降る。 美郷お姉ちゃん、なんでそんなこと、お母さんに言うの? 心配するやんか、お母さん。 心配かけたくないねん。それでなくても、一人暮らしして親不孝やのに。 もう少し、家にいたいねん。 菅野さんに着いていくの、怖いねん。 それやのに、なんでかな。 送信できひんねん。 「いつ東京へ戻るんや?」 お婆ちゃんまでが、私に聞く。心配そうな目をしてる。 「7日……かなぁ……。」 すると、お姉ちゃんが、例の大きな声で言った。 「タイミングって大事やねんで。」 私はぐっと唇を食いしばった。 YES。 送信しています。 「お姉ちゃんこそ、再婚のチャンス逃したら知らんで。」 お姉ちゃんは、おもむろに電話に立った。 そして、受話器に向かって大きな声を出した。 「椙矢、何してんの? 朝ごはんの用意、出来てるで。はよ、おいでや。」 椙矢を呼ぶの? 「今日、未散を空港まで送ってやってくれへん?」 「お姉ちゃん、私、空港へは…」 新着メールが届いた。 菅野さんからだった。 『空港で待ってる。』 椙矢が赤い目をしてウチの家に飛び込んできたのは、その直後だった。 「なによ、椙矢、その顔。若さがないねえ。」 美郷お姉ちゃんはケラケラ笑った。 「うっさい。オレは必要以上にナイーブなんや。」 そんな椙矢を見る美郷お姉ちゃんの目が、私にはなんだか、優しく感じられた。 「そんなんで、父親になれんの?」 椙矢は、美郷お姉ちゃんの顔すら見れずに、固まってしまった。 私やお母さんやお婆ちゃんは、皆、一様に、美郷お姉ちゃんの顔を穴が開くほど見つめた。 「美郷……」 お婆ちゃんが心配そうにつぶやいた。 「いっぺん失敗してんのに、大丈夫か?」 お婆ちゃんのするどい突っ込みに、お姉ちゃんは苦笑した。 「一回失敗したら、もうどうでもええねん。」 「そんな、なげやりかよっ!!!」 椙矢が驚いて大声を出した。 「冗談やって。」 私は、そう言って、椙矢の背中をぽんと叩いた。 「がんばってな、お義兄ちゃん。」 椙矢は、気味悪そうな顔で私を見た。 言っとくけど、私かって気持ち悪いんやからね。 「それより、何時の便やねん。」 椙矢が私に聞いた。 「行かへんから。」 私はそれだけ言って、食事を続けた。 「菅野さんに、理由は説明したんか? どうせ、メールとか、電話とかで適当なこと言うたんやろ?」 「ええんやってば。」 「空港まで行け。」 椙矢が私に命令した。 「連れてったる。」 美郷お姉ちゃんが、私の部屋から、鞄を持ってきた。 「ほら、用意して。会うだけ会いなさい。」 お姉ちゃんにも命令された。 「行かへん〜〜〜!!」 私は両手をグーにして踏ん張った。 しかし、結局、私は9時すぎに、空港の、国内線出発ロビーに来ていた。 車中で椙矢がさんざん、ガンバレとか負けるなとか、 有難く、励ましてくれた。 ロビーには、私一人で、立ち向かう。 もう、菅野さんは飛行機に乗り込んでしまって、いないかもしれない。 そんな気持ちでロビーを歩いていた私は、 菅野さんの姿を見つけたとき、思わず立ち止まってしまった。 背中と頭が見えた。 ロビーの椅子に座っていた。 ドキドキ。 会いたくて、会いたくて、しょうがないんだ。 昨日も会ったのに。 出会ってから毎日のように、会っていたのに。 顔を見たくて、目を覗き込みたくて、 嬉しくて、恥ずかしくて、幸せで。 私を見つけたら、 菅野さんはどんな顔をしてくれるだろう。 菅野さん、 そう声をかけようとした。 だけど、私は声が出なかった。 菅野さんと、一つ離れた席に、 カノジョが座っていた。 来海さんだ。 |
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