good morning




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「はっぴぃ☆らっきぃ☆」

(16)

あれから3年が経った。
私の環境は激変した。
大学を卒業し、私は大阪で就職した。実家から少し離れたアパートに住んでいる。
実家は活気を取り戻していた。
美郷お姉ちゃんと椙矢が結婚したおかげで、豆腐屋を再開することができた。
椙矢はお母さんの下で、必死で豆腐作りを学んでくれ、
いまや、若主人としてお客さんからの評判もいい。
結構、見直した。
そのうえ、この3年で、小学生になった穂波ちゃんの下に、2歳になったばかりの友見(ともみ)くんと、生まれて間もない奈波(ななみ)ちゃんという兄妹が生まれて、
お婆ちゃんでさえ子守に使われるくらい、毎日はちゃめちゃだった。
でも、みんな幸せそうだった。
忙しくて、疲れて、でも、笑いは絶えないっていう、そんな日々を送っていた。
私も毎日のように実家に呼ばれ、仕事帰りにご飯を食べてお風呂に入って、
そしてアパートには寝に帰るだけ、みたいな、
どっぷり実家のペースにはまっていた。
 
美郷お姉ちゃんの、大変だが幸せそうな生活をみていると、私も早く結婚したいなぁ、なんて結婚願望がムクムク湧きあがってきた。
でも、相変わらずのお見合い三昧は、ほんと、ご勘弁って感じです。
 
「いいかげん、前向きになりや。」
美郷お姉ちゃんの口癖。
「人生、諦めが肝心。」
椙矢の口癖。あんた、絶対美郷お姉ちゃんのこと、諦めなかったくせに!!
そりゃあ、私も3年も経つのに、まだ菅野さんのことを忘れられないっていうのは、いじいじしているかなぁって、自分でも情けないけど。
 
菅野さんは、東和食品という食品メーカーに勤めていると聞いたことがあったので、私は就職活動中に、こっそり東和食品に行ったりもしたが、
レベルが高すぎて、試験で落ちてしまった。がっくり。
その時点で、やっぱり縁が無かったんだなぁと、痛感した。
 
就職口は、関西では有名なデパート、三島屋京都店になんとか入ることができて、一安心。
インフォメーションで案内をしている。
毎日殆ど立ちっ放しで両足が浮腫んで辛かったのも、今では慣れてしまった。
問題はただ、一つ。
「遠藤、昼飯食いに行こうぜ!」
なぜか案内係の女性のうちの、私だけを呼び捨てにする上司、竹内フロアマネージャー。
千葉だか埼玉だか茨城だかわからないが、関東の出身で、妙に熱苦しい視線で、大声を発する男。
今日も、休憩時間に入ったとはいえ、まだカウンターの中にいる私の前に立ちはだかる。
「竹内さん、お客様のジャマです!」
私は竹内がカウンター前を占領するのを、手で払いのけた。
それは、春先のことだった。
 
そのときインフォメーション前のエスカレーターを下っていく男女が目に入った。
ドキッとして固まる。
あの後ろ姿は。

菅野さん?
 
 
 
まさか、と思いながら、竹内を避けながらエスカレーターの前まで走っていった。
B1につく、その二人は仲よさそうに話していて、笑顔が見えた。
菅野さんだった。
スーツを着て、鞄をさげて、多分仕事中だ。
女性のほうも、スーツだった。同僚だろうか。
 
おいかけて、いいのかな。
おいかけて、菅野さんを呼び止める?
そのあと、何て話す?
菅野さんは一人じゃないから、迷惑になるかも。
でも。
 
私は近寄ってきた竹内の影を感じると、思わずエスカレーターを走って降りていた。
走ってはいけないのだ。緊急非難時以外店内を走ってはいけない。
でも、これは、私にとっては緊急も緊急、3年ぶりの再会なのだから。
しかし、B1に着いたとき、その混雑に唖然とした。
そう昼時のデパ地下は人の渦。
 
菅野さんのことを、ついに、私は見つけることができなかった。
 
 
 
久しぶりに落ち込んでいる私を見て、椙矢が静かに言った。
「きっと、見間違いやって。」
 
私は考えた。
こんなに、今でも会いたいのなら、どうして3年前に連絡を途絶えさせてしまったんだろう。
メールでも、電話でも、繋がっていられた。遠距離恋愛は可能だったはず。
でも、私も菅野さんも、一緒にいた時間が短かったから、忘れられると思った。
静かに、ゆっくりと毎日を過ごせば、きっと忘れられるんだと、思っていた。
別の新しい誰かとの出会いが、お互いにとって幸せなんだろうと、そう、思っていた。
 
携帯電話の機械は変わったけれど、変えられなかった自分の番号とアドレス。
消せなかった、菅野さんの番号とアドレス。
メールを送ってみたが、not deliveried。
もう、携帯でさえ、繋がらない。
 
 
それ以降、菅野さんには再び会えないまま、夏がやってきた。
恐怖のお盆休みがやってきた。
デパートに勤めているから、本当はお盆休みなんて無いのだが、ウチは家族そろって、お父さんのお墓参りに行くのが習慣で、休まざるを得ない。
そして、また、お婆ちゃんのツテで、お見合いの話がやってくる。
 
「今度の人は男前やで。未散も、このへんで決めとき。」
はぁ…とため息が出る。
「なんやったかな、ええとこに勤めてはるんや。三島屋ゆうたかな。」
「えええ〜?」
私は怪訝そうな顔をした。
「三島屋って私の勤めてるところやで? お婆ちゃん、ボケてんのんちゃうの!」
「誰がボケてるやって。この子は。」
お婆ちゃんは怒りながら、お見合い写真を広げて、私に見せた。
ジャーン。
そこには、あの、竹内フロアマネージャーの大きな顔が写っていた。
力なく、へたり込む私。
「どうや、男前やろう。」
「ん〜、この人、私の上司やわ〜。」
「ほな、ええやん。」
「なんで??? ぜっっっっったいに、イヤ!!!」
お婆ちゃんはまた怒って写真を閉じた。
「あんたは、わがままばっかり。それでいて、はよ結婚したいなんて。」
「いや、もう、どうでもいい。結婚なんか、せんでもいい!!」
私はお婆ちゃんがまだ5冊ほど抱えているお見合い写真をぱっと見て、口を尖らせた。
「お見合いはイヤやって、ずっと言うてるやん、お婆ちゃん!」
「見るだけ見なさい。先方に失礼やろ?」
「適当に断って。」
「わざわざ、お盆休みを利用してこっちに帰ってきてはる人もいるんやで? あんたとのお見合いのために…。それを会いもせんうちに断るて…」
あ〜!!
私は半分ヤケだった。
「会えばいいんでしょ、会えばっ!」
 
竹内との見合いなんて、ゾッとする。
実はダイキライなタイプなのだ。
若くしてマネージャーの地位にいることを鼻にかけてる所とか、横柄な態度とか、もう、全てが嫌い。
 
しかし、私は今回もまたいろんな人と見合いすることになってしまった。
ホテルの喫茶ルームで、順番に顔を見て話すだけ、という超簡単な見合いで、なんとか終わらせた。
竹内を含め、4人目が終わった時点で、今日は解放された。
残りの一人は仕事でキャンセルということだったから。
また別の日に? とんでもない。
キャンセル食らったら、もう、断るのに十分な理由だわ。
私はタクシーで帰ろうとしたが、ふと、携帯が無いことに気付いた。
付き添いの相手方のおばさんと、ウチの母親に言った。
「すみません。ちょっと待ってください。さっきの喫茶室で携帯落としたみたい。探してきます!」
私は喫茶ルームに急いで戻った。
あった。
真っ白の携帯が、ソファにちょこんと座っていた。
そっと取り上げようとかがむと、私の体は何かにドンっと突き飛ばされ、ソファにうずくまってしまった。
「あっ!! ごめんね!」
どこかのおばさんの大荷物が私の背を押したのだ。
手に持っていた私の携帯が飛ばされ、大理石のフロアをすーっと滑って行ってしまった。
人に蹴られちゃう!!!
キレイな真っ白な携帯だったのに!!!!
カ、カメラが、壊れるかもっ!
カツンカツンとテーブルの脚や人の靴に当たって、遠くに飛ばされてゆく。
急いで、携帯が滑っていったほうへと走ると、ちょうど男の人が拾ってくれているところだった。
「すみません。それ、私の携帯です。ありがとうございました…」
私は、携帯を受け取ると、男の人に一礼して、そして、顔を上げられずに、固まってしまった。
 
「未散ちゃん…。」
うそじゃない。
幻聴じゃない。
 
「仕事、なんとか切り上げて来たよ。」
ゆっくりと視線を上げる。
 
菅野さんが、私の目の前に立っていた。
「菅野さん…」
半そでのシャツにネクタイ姿は、全く印象にない、明るい感じの菅野さんだった。
額に汗をかいて、にこにこしている。
「どうしたの?」
菅野さんは私の問いかけに、目を瞬かせてから、
いままで見たことも無いくらいに、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 
次の瞬間、私は菅野さんにぎゅーっと抱きしめられていた。
 
 
「お見合いで結婚するのも、悪くないよ?」
菅野さんは私の耳元でそう囁いた。
 
「え?」
「え?」
「え?」
私は分からないまま、抱きしめられていた。
「9月からは正式に大阪勤務だから。」
 
私が戻ってくるのが遅いので、おばさんと母親が心配して、店に入ってきた。
「あら、すがのさん、お見合いの時間に間に合ったんですねえ。」
おばさんのすっとんきょうな声。
「すがのじゃないですよ、かんのですよ。」
菅野さんは苦笑いして、私の顔を見た。
私も、母親も、唖然としていた。
 
 
そして、その後から、湧きあがる、
 
これ以上無い、幸せな気持ち。
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