<<home <<Text <<1 <<2 <<3 <<4 <<5 <<6 <<7 <<8 <<9 <<10 <<11 <<12 <<13 <<14 <<15
| 「はっぴぃ☆らっきぃ☆」 (16) あれから3年が経った。 私の環境は激変した。 大学を卒業し、私は大阪で就職した。実家から少し離れたアパートに住んでいる。 実家は活気を取り戻していた。 美郷お姉ちゃんと椙矢が結婚したおかげで、豆腐屋を再開することができた。 椙矢はお母さんの下で、必死で豆腐作りを学んでくれ、 いまや、若主人としてお客さんからの評判もいい。 結構、見直した。 そのうえ、この3年で、小学生になった穂波ちゃんの下に、2歳になったばかりの友見(ともみ)くんと、生まれて間もない奈波(ななみ)ちゃんという兄妹が生まれて、 お婆ちゃんでさえ子守に使われるくらい、毎日はちゃめちゃだった。 でも、みんな幸せそうだった。 忙しくて、疲れて、でも、笑いは絶えないっていう、そんな日々を送っていた。 私も毎日のように実家に呼ばれ、仕事帰りにご飯を食べてお風呂に入って、 そしてアパートには寝に帰るだけ、みたいな、 どっぷり実家のペースにはまっていた。 美郷お姉ちゃんの、大変だが幸せそうな生活をみていると、私も早く結婚したいなぁ、なんて結婚願望がムクムク湧きあがってきた。 でも、相変わらずのお見合い三昧は、ほんと、ご勘弁って感じです。 「いいかげん、前向きになりや。」 美郷お姉ちゃんの口癖。 「人生、諦めが肝心。」 椙矢の口癖。あんた、絶対美郷お姉ちゃんのこと、諦めなかったくせに!! そりゃあ、私も3年も経つのに、まだ菅野さんのことを忘れられないっていうのは、いじいじしているかなぁって、自分でも情けないけど。 菅野さんは、東和食品という食品メーカーに勤めていると聞いたことがあったので、私は就職活動中に、こっそり東和食品に行ったりもしたが、 レベルが高すぎて、試験で落ちてしまった。がっくり。 その時点で、やっぱり縁が無かったんだなぁと、痛感した。 就職口は、関西では有名なデパート、三島屋京都店になんとか入ることができて、一安心。 インフォメーションで案内をしている。 毎日殆ど立ちっ放しで両足が浮腫んで辛かったのも、今では慣れてしまった。 問題はただ、一つ。 「遠藤、昼飯食いに行こうぜ!」 なぜか案内係の女性のうちの、私だけを呼び捨てにする上司、竹内フロアマネージャー。 千葉だか埼玉だか茨城だかわからないが、関東の出身で、妙に熱苦しい視線で、大声を発する男。 今日も、休憩時間に入ったとはいえ、まだカウンターの中にいる私の前に立ちはだかる。 「竹内さん、お客様のジャマです!」 私は竹内がカウンター前を占領するのを、手で払いのけた。 それは、春先のことだった。 そのときインフォメーション前のエスカレーターを下っていく男女が目に入った。 ドキッとして固まる。 あの後ろ姿は。 菅野さん? まさか、と思いながら、竹内を避けながらエスカレーターの前まで走っていった。 B1につく、その二人は仲よさそうに話していて、笑顔が見えた。 菅野さんだった。 スーツを着て、鞄をさげて、多分仕事中だ。 女性のほうも、スーツだった。同僚だろうか。 おいかけて、いいのかな。 おいかけて、菅野さんを呼び止める? そのあと、何て話す? 菅野さんは一人じゃないから、迷惑になるかも。 でも。 私は近寄ってきた竹内の影を感じると、思わずエスカレーターを走って降りていた。 走ってはいけないのだ。緊急非難時以外店内を走ってはいけない。 でも、これは、私にとっては緊急も緊急、3年ぶりの再会なのだから。 しかし、B1に着いたとき、その混雑に唖然とした。 そう昼時のデパ地下は人の渦。 菅野さんのことを、ついに、私は見つけることができなかった。 久しぶりに落ち込んでいる私を見て、椙矢が静かに言った。 「きっと、見間違いやって。」 私は考えた。 こんなに、今でも会いたいのなら、どうして3年前に連絡を途絶えさせてしまったんだろう。 メールでも、電話でも、繋がっていられた。遠距離恋愛は可能だったはず。 でも、私も菅野さんも、一緒にいた時間が短かったから、忘れられると思った。 静かに、ゆっくりと毎日を過ごせば、きっと忘れられるんだと、思っていた。 別の新しい誰かとの出会いが、お互いにとって幸せなんだろうと、そう、思っていた。 携帯電話の機械は変わったけれど、変えられなかった自分の番号とアドレス。 消せなかった、菅野さんの番号とアドレス。 メールを送ってみたが、not deliveried。 もう、携帯でさえ、繋がらない。 それ以降、菅野さんには再び会えないまま、夏がやってきた。 恐怖のお盆休みがやってきた。 デパートに勤めているから、本当はお盆休みなんて無いのだが、ウチは家族そろって、お父さんのお墓参りに行くのが習慣で、休まざるを得ない。 そして、また、お婆ちゃんのツテで、お見合いの話がやってくる。 「今度の人は男前やで。未散も、このへんで決めとき。」 はぁ…とため息が出る。 「なんやったかな、ええとこに勤めてはるんや。三島屋ゆうたかな。」 「えええ〜?」 私は怪訝そうな顔をした。 「三島屋って私の勤めてるところやで? お婆ちゃん、ボケてんのんちゃうの!」 「誰がボケてるやって。この子は。」 お婆ちゃんは怒りながら、お見合い写真を広げて、私に見せた。 ジャーン。 そこには、あの、竹内フロアマネージャーの大きな顔が写っていた。 力なく、へたり込む私。 「どうや、男前やろう。」 「ん〜、この人、私の上司やわ〜。」 「ほな、ええやん。」 「なんで??? ぜっっっっったいに、イヤ!!!」 お婆ちゃんはまた怒って写真を閉じた。 「あんたは、わがままばっかり。それでいて、はよ結婚したいなんて。」 「いや、もう、どうでもいい。結婚なんか、せんでもいい!!」 私はお婆ちゃんがまだ5冊ほど抱えているお見合い写真をぱっと見て、口を尖らせた。 「お見合いはイヤやって、ずっと言うてるやん、お婆ちゃん!」 「見るだけ見なさい。先方に失礼やろ?」 「適当に断って。」 「わざわざ、お盆休みを利用してこっちに帰ってきてはる人もいるんやで? あんたとのお見合いのために…。それを会いもせんうちに断るて…」 あ〜!! 私は半分ヤケだった。 「会えばいいんでしょ、会えばっ!」 竹内との見合いなんて、ゾッとする。 実はダイキライなタイプなのだ。 若くしてマネージャーの地位にいることを鼻にかけてる所とか、横柄な態度とか、もう、全てが嫌い。 しかし、私は今回もまたいろんな人と見合いすることになってしまった。 ホテルの喫茶ルームで、順番に顔を見て話すだけ、という超簡単な見合いで、なんとか終わらせた。 竹内を含め、4人目が終わった時点で、今日は解放された。 残りの一人は仕事でキャンセルということだったから。 また別の日に? とんでもない。 キャンセル食らったら、もう、断るのに十分な理由だわ。 私はタクシーで帰ろうとしたが、ふと、携帯が無いことに気付いた。 付き添いの相手方のおばさんと、ウチの母親に言った。 「すみません。ちょっと待ってください。さっきの喫茶室で携帯落としたみたい。探してきます!」 私は喫茶ルームに急いで戻った。 あった。 真っ白の携帯が、ソファにちょこんと座っていた。 そっと取り上げようとかがむと、私の体は何かにドンっと突き飛ばされ、ソファにうずくまってしまった。 「あっ!! ごめんね!」 どこかのおばさんの大荷物が私の背を押したのだ。 手に持っていた私の携帯が飛ばされ、大理石のフロアをすーっと滑って行ってしまった。 人に蹴られちゃう!!! キレイな真っ白な携帯だったのに!!!! カ、カメラが、壊れるかもっ! カツンカツンとテーブルの脚や人の靴に当たって、遠くに飛ばされてゆく。 急いで、携帯が滑っていったほうへと走ると、ちょうど男の人が拾ってくれているところだった。 「すみません。それ、私の携帯です。ありがとうございました…」 私は、携帯を受け取ると、男の人に一礼して、そして、顔を上げられずに、固まってしまった。 「未散ちゃん…。」 うそじゃない。 幻聴じゃない。 「仕事、なんとか切り上げて来たよ。」 ゆっくりと視線を上げる。 菅野さんが、私の目の前に立っていた。 「菅野さん…」 半そでのシャツにネクタイ姿は、全く印象にない、明るい感じの菅野さんだった。 額に汗をかいて、にこにこしている。 「どうしたの?」 菅野さんは私の問いかけに、目を瞬かせてから、 いままで見たことも無いくらいに、嬉しそうな笑顔を浮かべた。 次の瞬間、私は菅野さんにぎゅーっと抱きしめられていた。 「お見合いで結婚するのも、悪くないよ?」 菅野さんは私の耳元でそう囁いた。 「え?」 「え?」 「え?」 私は分からないまま、抱きしめられていた。 「9月からは正式に大阪勤務だから。」 私が戻ってくるのが遅いので、おばさんと母親が心配して、店に入ってきた。 「あら、すがのさん、お見合いの時間に間に合ったんですねえ。」 おばさんのすっとんきょうな声。 「すがのじゃないですよ、かんのですよ。」 菅野さんは苦笑いして、私の顔を見た。 私も、母親も、唖然としていた。 そして、その後から、湧きあがる、 これ以上無い、幸せな気持ち。 |
|---|
最後まで読んで下さってどうもありがとうございました。
この作品はNEWVEL様のランキングに参加しています。