good morning




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「はっぴぃ☆らっきぃ☆」

(6)

「まだ大学生なんやってねえ、未散さん…。あんた箸の持ち方おかしいねえ。」
菅野恵太さんのおばさん、村岡さんが、私の顔を見ながら言った。
目つきは明らかに、嫁を見る姑の目だ。
「私と同い年やわ。」
篤子さんが冷めた口調で言った。
「あ、やっぱり?」
私はちょっと親近感を覚えてそう言ったが、その声をおばさんの大きな声が叩き落してくれた。
「まあ、篤子は4年も大学行って遊んでへんけど。ちゃんと仕事しながら家の仕事手伝ってるしねえ。」
私たち3人は台所の隅で御節料理をお重に詰めていた。
「短大ですか?」
「高卒よ。大学いったのは兄ちゃんたちだけ。」
切れ長の目が菅野さんにそっくりな篤子さんだが、
笑いを含まないとこれほどまでに冷たい表情になるんだわ、と感心してしまった。
あ、感心していると危うく聞き逃しそうになった。
「…? 兄ちゃんタチって…? 恵太さんとあとは…?」
「ん? 兄ちゃんよ。知らんの?」
私は少し疑うような篤子さんとおばさんの視線を受けて、身体が強張った。
「留太のこと、聞いてへんの?」
おばさんがそう私に問いかけてから、篤子さんと視線を交わした。
「留太…さんですか? 知りませんけど…」
「あんた恵太が一人息子やと思ってたん? あの子、次男やで?上に留太っちゅう一つ違いの兄がおる。」
「次男?」
私はちょっとその響きに、うっとりしてしまった。
次男やったら…。
 
そう、次男やったら、東京で暮らすことかて、できるやん。
別に「こんな家」を継いだりせんでもええんでしょう?
ええなあ…。
東京でびしっと働いている菅野さん。カッコイイやろうなあ…。
 
 
 
「でも、留兄は行方不明やから、実質一人息子やね。フフ」
 
私を夢から引き戻すように、篤子さんが言った。
 
 
さっさと海老やら伊達巻やら黒豆をきれいに配置していく篤子さん。
それに引き換え、私は生まれてから一度も御節なんか作ったことはないし、
それどころか食べたこともない。
百貨店の広告に載っていた御節のお重を見た程度だ。
親は正月も休まず仕事をしていたし、美郷おねえちゃんも、私も、
湯豆腐やお雑煮のほうが大好きだったから…。
 
紅白の蒲鉾や、数の子を並べては、全ておばさんに位置を直されている。
「この魚は何処へおきましょうか…」
私は遠慮気味に聞いてみた。
「さかな? ごまめでしょうに。」
「サトイモは…」
「これは海老芋やないの、あんた本当に京都の子か?」
「……。」
こ、こんな屈辱に負けてたまるか。
 
 
篤子さんが、とんとんと私の肩を叩いた。
「もう、御節はええわ。私とおばさんとでやっとくから。こっちやってくれへん?」
私は篤子さんの後について静かな部屋に通された。
4畳半くらいの和室に、彼女は小さなテーブルを出し、
冷蔵庫から取ってきたらしいビールの缶を1本、私の目の前に置いた。
「お疲れさま。大変ねえ、こんなところに嫁に来るなんて。」
思いがけず篤子さんが、ねぎらってくれた。
「ううん。……お嫁さんとかそんなんやないし。」
嬉しくて、ついポロリと本音が出る。
「謙遜せんでもええよ。今まで恵兄がカノジョ紹介するなんてなかったから、本気なんやと思うよ。」
少しでも優しい表情になると、篤子さんは菅野さんと似た雰囲気を出す。
きっと彼女も賢い人なのだろうと想像する。
「おばさん、口は悪いけど、別に意地悪しようと思ってるわけやないよ。けっこう恵兄のこと可愛がってたから、お嫁さん連れてきてくれたん、嬉しいんやと思うな。未散さんのこと、自分の娘みたいに可愛がってくれると思うよ。」
篤子さんは灰皿を出して一服しながら、そう言った。
 
そうなんやぁ。
さっきは「こんな家」呼ばわりしてしまったけど、実はええ人ばっかりなんやね。
そらぁ、菅野さんが生まれて育った家なんやし、悪いわけないわ。
あほやなあ、私。
 
篤子さんはふと立ち上がり、タンスの上にある写真立てを持ってきた。
「これ、留兄、恵兄、私。」
男二人が並び、その真ん中に篤子さんが立っている。
みな学生服を着ている。
 
か、かわいいっ。
菅野さんの高校時代?
きっちり奥二重、切れ長の目、鼻筋、眉、唇の形まで、そっくりの3兄妹だわ。
特に留太さんと恵太さんは雰囲気は違うけど、双子みたい。
「留兄は大阪で就職したんやけどさ。職があわんかったんやろうねえ。
 2週間で営業の仕事やめて、消えてもうてん。」
 
私が穴が開くほど写真を見つめていると、なにかごそごそと篤子さんが持ってきた。
他にも写真が?
私は期待を持って篤子さんの手にある箱を見つめた。
「これ、お願いするね?」
「なんですか?」
「今年分の帳簿、まだ書けてへんねん。誰かせなあかんねんけど、みんな嫌がって〜。
 未散さんは現役女子大生やし、できそうでしょ?」
 
えええええっ!
 
大きな箱の中には、領収書とか納品書や請求書やらがぐちゃぐちゃに詰まっていた。
「うち、青色申告やから、帳簿が命なんよね〜。じゃ、後はヨロシク!」
 
篤子さんはタバコを消して、さっさと台所の方へ帰ってしまった。
 
し、しらんやんかあ。
簿記とかやってへんのに、コレ、わかるもん?
 
じっとノートを見てから、仕方なく領収書を日付順に並べ始めた。
算数が一番苦手な私に、こんなもんを…。
 
すると、さっと襖が開いて見知らぬおじさんが立っていた。
「お、恵ちゃんのお嫁さんやんか。何してんの、こんなとこで…」
「え、あの、頼まれた仕事があったんで…」
私が驚いている暇もなく、おじさんは私の手を取って外へ引きずり出そうとした。
「恵ちゃんのお嫁さん、こんなとこにおったでぇ〜。」
よ、酔っ払ってるやん。この人。
オジサンたちの集団の中へ引きずり込まれた私。
これってなんか、芸者遊びか何かと間違えられそうで、怖い〜〜〜。
 
菅野さんのお父さんも、笑って両手で私を招いている。
さすがに病み上がりらしく、お酒は飲んでいないみたいだけど、
周りからは日本酒のキツイにおいが漂ってくる。
私はオジサン方の座敷の真ん中に座らされ、お酌お酌のホステスさん状態になった。
 
私はこんなことをするために、おしゃれしてきたんとちゃうよぉ〜〜〜。
「いやあ、やっぱり京都の子はおっとりしてて、かわいいなあ。」
「隣に座ってや〜。」
家族や親戚ならともかく、町内会のオジサンまでいるのに、これって、見世物?
酔っ払いの相手なんてイヤやっ。
あちこち体触ってくる〜〜〜。もうっ!!
私は舞妓さん修行はしてないんようっ!!
どうやったらいいんかわからんし…。
どうやって抜け出したらいいんよぉ……。
 
「未散さん?」
おばさんの声だった。私は助け舟だとばかりに、
立ち上がっておじさんの輪の中から出ようとした。
するとどうだろう。
「お相手ご苦労さま。失礼のないようにねぇ。」
「え? でも、私しなくちゃならない仕事が…。」
「ああ。そっちは今晩中に仕上げてくれたらええから。」
「え、あれ、あの量を、今晩中ですかっ!!!」
 
い、一体いつまでここにいるっていうの…?
 
「そうそう、夕方から店閉めるから、閉店後の店の掃除を手伝ってもらわんとなぁ。
 浴槽の大掃除やから力いるで。」
おばさんはニカニカ笑っている。
 
 
 
エエエエエ……。
 
 
「後でジャージに着替えたら?」
篤子さんが相変わらずの無表情で言った。
 
 
 
 
くっそう。
 
こうなったら。
 
やってやるう。
 
 
これは菅野さん云々の問題とちゃうわっ!
何かの修行よ。
きっと滝に打たれるかわりに、やらされてるんよ。
 
それなら、そうで、やってやるう。
トロトロしてる私やけど、結構、根性があるとこは見せてやるわっ!!!
 
なんかわからんけど、やってやる〜〜〜〜!!!!!!
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