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| 「ラブ・マイ・ラブ」 (7)このちっぽけな力で 「えっ?」 撫由は驚いてベッドの上に飛び起きた。 「今、なんて?」 「あ、いやいや、ウソだよ」 遥哉は、予想以上の撫由の反応に、少し驚いていた。 「どうして、そんなに弱気になるの? 幸せになれるよ、絶対、大丈夫だよ」 撫由は遥哉の手をとって、何度も強く握った。 遥哉はベッドの上に起き上がり、座り込むと、撫由の手を見つめたままつぶやいた。 「オレ、生きていけるかわかんね」 「なんとかなるよ、遥哉さん。私が遥哉さんを守ってあげるから」 「ちがうだろ、オレが撫由を守らなきゃならないのに、オレにそれだけの力がない」 遥哉は、くっと唇をかみ締めて、うつむいた。 撫由は自分の父の非道な性格を知っていた。強情で、冷酷で、甘えを許さない。例外を認めない、部下に絶対を求める、そんな人だ。私は父のコマのひとつでしかない。私がチューピーに嫁ぐことは会社のためには当然のこと。それを阻止しようとすれば、遥哉さんが、豊里という家の人でなかったとしても大きな報復が待っているはず。 やっぱり私が、素直に父の元に帰ればいいの? でも、そんなひどい男と一緒になるなんて、考えただけで嫌だわ。 そう、遥哉さん以外の人とは、もう一緒にいたくない。 月夜の白い明りの元で、お互いの顔を見ながら、言葉も交わせずに、時間だけが過ぎていった。 白んだ朝の気配が、二人のもとに届いた頃、二人はいつのまにか眠りに落ちていて、小さく抱き合っていた。 ぬくもりがふと消え、愛しい体の重みもなくなったことに、なんとなく気付いた遥哉は、ベッドから頭を上げた。 撫由が服を着て、出かけようとしていた。 「撫由?」 「遥哉さん、起きたの? おはよう」 「うん。おはよう。どこへ行くんだ?」 撫由は笑顔で財布を持ち上げ、大きなスリッパからスニーカーに履き替えていた。 「あのね、朝ごはんを買いに、コンビニまで。ちょっと待っててね」 「あー。うん。ありがとう。気をつけてね」 「うん」 遥哉は撫由が行ってしまって、ドアが閉まるのを見届けると、また布団にもぐりこんだ。 布団を揺さぶられ、遥哉はまだ寝ぼけたままで、体を起こして周りを見た。 「撫由?」 そこにいるはずの撫由はいない。買い物に出かけたが、あれからずいぶん眠ったような気がする。 そして、遥哉のまわりにいる男たちは、一体誰だ? 数人のサングラスをかけた、怪しげな男たちが、土足で部屋の中を歩き回っている。 「幹原撫由を出せ」 「あ?」 遥哉は瞼が開かない、不機嫌な目つきで、その男を睨み返した。 「幹原撫由を出せ」 「誰だ、テメーら」 「誰でもいい。早く出せ。居所を言わないと、痛い目に遭うぞ」 三人の男たちは、部屋をひっくり返しながら、撫由を探しているようだった。 遥哉は腕時計を見た。9時だった。しかし、撫由がコンビニまでといって出かけたのは8時過ぎくらいのことで、まだ部屋に帰ってきていないのはおかしかった。コンビニまで15分もあれば往復できる。 遥哉は次第にことの重大性がわかってきた。 立ち上がり、頭を押さえて、寝起きの頭で必死で考えている。しかし、なぜ撫由がいないのか、わからない。 急に、一人の男が小さなサバイバルナイフを出した。 そして、それを遥哉の頬に当て、にやにやと笑いながらつぶやいた。 「この小さいナイフで、どれだけのことができると思う?」 ぴたぴたと頬をナイフで打たれて、遥哉はゴクリと唾を飲み込んだ。 「早く、吐け。時間が無いんだ」 時間が無い、その言葉で、遥哉は今日、撫由と変態矢内の顔合わせがあることを思い出した。 「知らねーよ。起きたらいなかったんだからな」 遥哉は言った。 「痛いのが、お好きなようだな」 無表情な男は、口角を上げ、笑わない目で遥哉をにらみつけた。 撫由はコンビニで買い物した後、アパートに帰ろうと歩いていると、急に後ろから羽交い絞めにされて、声も出せないうちに道路わきの車の中に連れ込まれた。 相手は二人組みの男たちだった。撫由が抵抗しても敵わなかった。すぐに撫由の両手両足をガムテープでぐるぐるまきにした。口と目にガムテープを貼られたが、見知らぬその男たちはあまり手馴れてはいないようだった。ぎこちなく、ときおりため息をつきながら、無言で作業を行っていた。 そのまま、撫由は車の後部座席に横にされ、布をかけられて、運ばれた。どこへ行くのか、全く見当もつかない。ただ、遥哉に逢いたいと思っていた。遥哉が心配するだろう、目が覚めて私がいなかったら、探しまわるかもしれない。ごめんね、遥哉さん。そう思うと涙がにじんできた。 自分の身の心配よりも、遥哉と連絡が取れないことの心細さが先にたった。携帯はポケットの中だ。けれど、電源を切っている。 撫由は、何度も心の中で、遥哉の名を呼んだ。 しかし、無情にも車は目的地へと向かって走り続けた。時折、男たちの会話が聞こえた。 助手席側の男が言った。 「案外ラクショウだったな」 運転している男がつぶやいた。 「バカ。お前は気楽でいいよな」 助手席の男はFMラジオから流れる曲を口ずさんだりして、緊張感のない態度だった。それに引き換え、運転席の男は終始押し黙っていて、重苦しい雰囲気を感じさせた。 しばらく走って、急に車が徐行を始めたかと思うと、停車した。 助手席の男は「じゃあな」と言ったかと思うと、ドアを開け、どこかに行ってしまったようだった。気配がなくなった。 撫由は車の振動がなくなり、その静けさに身震いした。 どこに連れてこられたんだろう。私はどうなるんだろう。 このとき、ようやく自身の危険を感じた。 すると、今まで押し黙っていた運転席の男が、撫由の方に向かって言葉を発した。 「喉、渇いてない?」 当然、口に貼られたガムテープのせいで、答えることはできない。それより、急に声をかけられたことに驚いて、撫由は身を強張らせた。 男は、車のドアを開け、外に出たらしく、鍵をかけた。 数分たって、撫由は、自分がこのまま放置されるのではないかという恐怖心に襲われ始めた。どこかはわからない土地に乗り捨てられて、放置されて、誰も発見してくれなかったら、私は死んでしまう。 それから、数分とたたないうちに、車にキーが差し込まれてドアが開くのがわかった。 外の音が聞こえる。ざわざわと声が聞こえ、たくさんの人がそこにいるのだと知った。 男は車に乗り込み、後部座席の撫由にかけた布を剥ぎ取った。 「幹原さん、体起こせる?」 男に言われて、ゆっくりと不自由な両手両足を動かし、なんとか座席に座った。すると、男は撫由の目と口のガムテープを剥がしてくれた。撫由の目の前に現れたのは、青い顔をした二十歳過ぎの男で、その手にはペットボトルが握られていた。 「ここはサービスエリア。目的地へはまだ2時間くらい走らなきゃ着かねえ。もし、逃げないと約束するなら、手も足も解いてやるよ」 「どこへ連れて行くの?」 撫由は涙で晴れた目で男に尋ねた。 「誰かの家さ。あんたに話があるっていう、それだけだ」 「それだけなの?」 「ああ」 「わかったわ。逃げない」 撫由は、男に手のガムテープを解いてもらった。自分で足を解くと、窮屈だった状態から解放されて、思わず身体を伸ばした。ちょっとだけ笑顔になった撫由に、男はりんごジュースを差し出した。 「あ、ありがとう」 男は黙々と菓子パンが三つ入った袋を差し出した。 「あ、あの……」 撫由はそれを受け取りながら、戸惑っていた。 「携帯電話を預かっておく」 男は撫由に向かって、てのひらを差し出した。 撫由はポケットの中の携帯を、渋々男に渡した。そのとき、ポケットの中で携帯の電源を入れた。 男は携帯を受け取ると、またどこかへと車を走らせ始めた。 その日、幹原侑(あつむ)は、神川彩乃の部屋に泊まっていて、撫由の身の上に起こったことを知らずにいた。 朝になり、侑はぼんやり部屋の天井を見上げていた。 寄り添っていた彩乃が目覚めて身体を少し起こし、侑の視界に入ってきた。 「おはよう。もう起きてたの?」 「うん。おはよう」 侑は微かに笑みを浮かべて彩乃を見た。 しかし、なぜか侑の気分はあまりよくなかった。 好きだった人と一緒に夜を過ごしたというのに、なぜか釈然としない憂鬱さが漂っていた。 僕は遥哉とは違う。 けれど、神川さんにとっては、僕は遥哉の代わりなのかな。 それとも、たくさんいるボーイフレンドのうちの一人ということなのかな。 考えていると虚しくなってくるのだ。 ようやく起き上がった侑は、夜に、何度か受信していたメールを見ることにした。 ソファの上に投げ出されたスーツのポケットを探る。点滅の閃光が、確かにメールがあったことを告げていた。携帯を開いて見ると、めずらしく山田からだった。 <撫由お嬢様が行方不明です。豊里遥哉と一緒のようです。今、探しているのですが、もし心当たりがありましたらご連絡ください> 驚いて、侑は山田に電話をかけた。 呼び出してはいるが、山田は出なかった。思い悩んだ挙句、自宅に電話を入れた。 「僕だけど」 『侑なの? よかったわ。あなたまで連絡が無いから、心配したのよ』 「ごめん」 電話を取ったのは、母だった。 「撫由ちゃんが行方不明だって、今メール見て知ったんだけど」 『ええ。昨日からずっと、山田が探してくれてるわ。見つかったらすぐに連絡があるから。今日ね、チューピーの矢内さんとの会食を予定してたのよ。だから、きっと家出したくなっちゃったのよね、撫由は……』 母は憐れんだ声を出した。 「そう。僕も一緒に探そうか? 土曜だから、休めるよ」 『いいわ。大丈夫。すぐ山田がなんとかしてくれると思う。仕事があるんでしょ? あなたはちゃんと会社に行きなさい』 「そう? わかった。じゃあ、見つかったら連絡して」 『すぐ、連絡をいれるわ。あなたも、今日は帰ってらっしゃいよ』 「わかったよ」 侑は母のお説教くさい言葉に、苦い顔をして携帯をたたんだ。 昨日、早退した分だけ、出社してリカバーしておきたい。それが済んだら、すぐに帰宅して姉の件で力になれることがあれば、いつでも出かけられるように待機していよう。侑はそう考えてから、彩乃を振り返った。 まだベッドの上にいた彩乃は茶色の瞳に翳を落としながら、つぶやいた。 「一緒にいられないの?」 侑はそんなふうに言われると少し胸が痛んだ。 「うん、仕事がある。それに、家でもちょっとしたトラブルがあって、仕事が済んだら即行帰んなくちゃー……」 彩乃はベッドから降りて、侑の体に抱きついた。 「明日は? 明日は会える?」 「え?」 正直言って、侑は彩乃の態度が、わからなかった。 なんで急にそんなに僕を求めるんだろう。何か嫌なことでもあったのかな。 何かの慰めとして、僕が必要なのかな。 そして、僕は、どうして、こんなに冷静なんだろう。 好きな人だよな。 一度の失恋で、想いが急落したのは確かだ。でも、そんなに簡単に嫌いになったり、どうでもよくなったりするはずがない。 それなのに、どうして、彩乃のことを大事にしてやれないのか、侑には自分でも理解できなかった。 会社に来て、侑はすぐに彩乃のことを忘れた。 土曜に出勤してくる社員はほとんどいなかった。侑はどうしても昨日の仕事の続きをしてしまいたかった。自分のデスクの書類の山をざっくりとすくい上げた。 月曜に即処理しなければいけないもの、まだ余裕のあるものを分けておく。 得意先周りで変更になった部分を、スケジュール帳に細かく書き込む。 仕事に没頭していた侑は、誰かが営業課のフロアに入ってきたことにも、気付かなかった。 「あの」 急に女の声がして、侑は驚いてデスクから顔を上げた。 入り口で微笑んで立っているのは、安藤しほ美、そう、侑の会社である佐野物産の社長の一人娘だ。 侑は突然の出来事に、あたふたしながら、椅子を蹴飛ばして立ち上がった。 「あ、いいんです。お仕事続けてください」 「いえ……」 脚を椅子で打って、その痛さに脚をさすりながら、侑は苦い顔でしほ美を見つめた。 「大丈夫ですか?」 「ええ、はい。大丈夫です。すみません、……っててっ」 侑は相変わらず、痛みに顔をゆがませていたが、そのうち、苦笑をもらして、まっすぐ立ち上がることができた。 「幹原さんですよね?」 安藤しほ美は長い黒い髪をそっと左手で掻き揚げ、微笑んだ。 「はい。え? どうしてご存知なんですか?」 侑の問いに、しほ美は顔を赤くした。 「写真で見たことがあったんです。父からあなたの噂はかねがね聞かされていました。昨日、階段で偶然お会いしたときも、あ、幹原さんだ……って」 そう言って、しほ美は恥ずかしそうにうつむいた。 侑は自分の噂というのは、一体何なんだろうと不安に感じながらも、しほ美の様子からは、結構な好感触を受けた。 「今日は一体、どうしてこちらに?」 侑は不思議そうに尋ねた。 「父についてきたんです。今日は父も出勤してるんです。社長室にいます。私は社長室にいてもつまらないので、こうして社内を探険してるんですよ。」 「そうですか。何か収穫はありましたか?」 侑は、思ったよりも話し安い社長令嬢にすっかり笑顔になっていた。 「だーれもいなくて」 しほ美は笑った。 美人なのに、笑うと両頬にできるえくぼがかわいい印象を与えた。小さな子供のようだ、と侑は思った。幼稚園の帽子を被らせたら似合いそうだと。 「土曜日ですからね」 侑はそういいながらも、言葉に意味はなく、ただ、しほ美の笑顔に見とれていた。 「明日……」 しほ美がちいさな声でつぶやいた。 「明日、映画でも観にいきません?」 「え?」 ぼ、僕とですか? 遥哉はナイフの冷たい感触に、息を呑んだ。本気なのだろうか、この男たちは。そう考えたが、疑っているような余裕は無い。抵抗したらどうなるのかわからない。なによりも、撫由の行方がわからないまま、離れ離れで死んでしまうのはとても辛い。 「今すぐ幹原撫由をここに出せ」 「わからない」 遥哉はそう答えた瞬間にナイフの柄で頭を強く殴られた。そして続けて腹を蹴られ、折れ曲がるようにして床に転がった。 そんな遥哉を男たちは三人で、顔や手などを力いっぱい踏みつけた。 遥哉は、これが、分不相応な恋をした報いなのかな、とぼんやりと頭の中で考えていた。それとも、今までの悪行の報い、業(ごう)というやつかな、とも考えた。 「はやく、答えろ!」 しゃがんだ男が、ナイフで遥哉の髪をつまんでざっくり切った。よく切れるナイフだな、と遥哉は他人事のように考えていた。 「耳か、唇か、鼻か、どこがいい?」 容赦ない言葉に、遥哉は低くうめいた。 男たちはナイフの尖った先を遥哉の頬に押し付け、血がにじみ出るのを、無表情に見ていた。 「しょうがないな、じゃあまず、耳からいくか」 遥哉は耳を引っ張られ、ぎゅっと目を閉じた。素手で三人の男相手では勝ち目が無い。 「知らないものは知らない。殺すなら、殺せよ」 男たちは笑った。 すると、そのとき、ドスッという音が聞こえ、男の一人が倒れた。 倒れた男の隣の男もまた、ドスッという音で、床に崩れた。 しゃがみこんでいた男は驚いて立ち上がり、振り向いた。そのときには、もう、大きな男の手にかかって、腹部に強いパンチを食らい、床に放り出された。 三人の男を一撃で倒していった大きな男は、その場に倒れて踏みつけられ目が開かない遥哉を抱き起こした。 「遥哉、豊里遥哉」 目をショボショボさせて、ようやく見ることができたのは、閻魔大王のような形相の男だった。自分を抱きかかえてくれているが、遥哉は逃げ出しそうになった。 「悪役顔で悪かったな」 そう言ったのは、幹原家の使用人、山田である。 「先生。どうしてここが?」 「さんざん、昨日から探し回っていろんな方面から情報を集めて見つけ出したんだ。おかげで一睡もしてないんだぞ」 「すみません……」 遥哉は素直に謝った。 「撫由お嬢様はどうしたんだ?」 「朝、コンビニに買い物に行ったきり、帰ってこないんです」 「そうか……」 遥哉は呆然としたまま、尋ねた。 「さっきのこの男たちは?」 山田は三人の男を足で蹴り飛ばしながら、遥哉にコートを着せて、部屋から出るよう促した。 「こいつらの目が覚めないうちに、こっちの車で撫由お嬢様を探すんだ」 遥哉は言われたとおりに山田のロールスロイスに乗りこんだ。 「あの三人組はな」 山田が運転をしながら説明した。 「ご主人様に雇われたチンピラだ。お前を痛めつけ、撫由を無事連れて帰るように命令されている」 「え、じゃあ、山田先生は?」 「私は、奥様に言われて行動している。私の目的は撫由お嬢様を連れ帰ることだけだ」 「じゃあ、オレを助ける必要なんて……」 「ないね、全く」 山田はきっぱりと言った。 「助ける義理はないが、お前が傷つけられると、撫由お嬢様が悲しむ。だから、まあ、ついでだ」 遥哉は少し黙り込んだ。 車の中で、山田は撫由の母に報告をしていた。 「ええ、第3者が撫由お嬢様をさらっていったようで、その相手の見当がつきません」 電話を切ったあとで、山田は沈み込んでいる遥哉に向かって言った。 「どこをどう探せばいいんだ? 一体誰だ? まさか、営利目的の誘拐か?」 遥哉はただうつむいていた。 ふと、思い出したように携帯を出して、撫由の番号にかけてみた。 撫由を乗せた車は、もう高速を降りて一般道を走っていた。 撫由も運転席の男も何も話さないまま、赤信号で停まっていた。急に、撫由の携帯が音を鳴らし始めたので、運転席の男は驚いて、その携帯を見つめた。 「遥哉……」 男はディスプレイに出た名前を見てつぶやいた。 「遥哉さんから?!」 撫由が身を乗り出した。 「出たいんだろう?」 男は意地悪そうな顔で撫由に聞いた。撫由は何もいえなかった。 すると、男はその電話に出た。 「おう、遥哉か?」 遥哉は電話に出たのが男だったので、犯人が出たと思い緊張した。 「誰だよ、お前は! 撫由はどこだよ!」 『まぁまぁまぁ』 相手は笑っていた。 『オレが誰だかわかるよな?』 「あん?」 遥哉は意外な問いかけに、目の前が真っ白になった。 山田が遥哉のそばで電話を聞いている。 「誰だ? なんのために撫由を誘拐したんだ」 『おっと、通報とか、すんなよ。悪いのは全部お前なんだからな。言っただろう、オレは。ちゃんと忠告したはずだぜ』 遥哉はそこまで言われて、はじめて相手の男が誰だかわかった。 「流詩、お前か!」 『撫由ちゃんが無事でいてほしいなら、ちょっとお前の誠意を見せるべきだな』 「なん……」 『オレだって、こんなことはやりたくねーんだ。でもな、しょうがない。全部、豊里遥哉って男のせいなんだよ』 まるで、流詞はそばにいる撫由に聞かせるためにわざと言っているような口ぶりだった。 「わかった。わかったから。なんでもする。お前の言うとおり何でもするから、だからどこにいけば撫由を返してくれるんだ? 教えてくれ」 流詞は笑いを漏らすと、「また連絡する」とだけ言い電話を切った。 その後、撫由の携帯はまた電源を切られてしまった。 |
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