good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「ラブ・マイ・ラブ」

(8)約束

「ご存知なければ結構です。後は私たちが探し出しますので」
 そう言った山田先生の声は、先生と生徒という間柄を完全に忘れ、幹原家の使用人としての立場でしか話をしなかった。
 そんなことに、少しショックを覚えながら、でも、それ以上に遥哉の行動に面食らった。
 何を考えてるの、遥哉は!
 夏穂は深いため息をついて、携帯を切った。家で夕食を子供に食べさせていたが、もうそれどころではなくなり、勝手に子供は手づかみで食べ始めた。

 夏穂は一人で考えていた。
 父親に話すべきだろうか。遥哉が撫由をさらって行方不明になってしまったことを。でも、豊里家がどう動いたところで、幹原家の力で探した方がよっぽど早く見つけられるだろう。
 ここは、アフターケアだ。
 探し回るのは先方に任せて、こっちは帰ってきた二人のために、できることを考えよう。

 ひと月たてば、女性雑誌にゴシップ記事が載る。だからそれまで撫由がガマンさえすれば……。しかし、撫由は、私が父親の会社が倒産するような記事を出させたことに、納得するだろうか。幹原家の生活は急変するだろう。お嬢様ではいられなくなる。
 それでいいのか?
 それだけ、人の人生を変えることをして、大丈夫なんだろうか。

 仮に、撫由が父親や家族よりも、遥哉を取るとして、それだけの価値が遥哉にはあるんだろうか。あの、我が家の放蕩息子は、女の敵、いつも気分で生きているテキトーな生活、ろくでもない人間として両親だってお手上げ状態。
 本当に大丈夫なの?

 夏穂は、頭が痛くなってきた。
 明るい未来を考えられない。撫由はどっちへ転んでも不幸のどん底。遥哉はフイと消えうせる可能性大。

 私は雑誌社には事実を伝えただけ。その記事でミキハラが倒産しようが、どうしようが知ったことではない。でも、撫由の将来は暗転するんだろうな。チューピーとの婚約が破棄されたとしても、家はガタガタになり、私たちのような貧乏暮らしになるかも。金が無くなった撫由に、遥哉は興味を持たなくなり……。

 夏穂はアフターケアを考えるはずが、フォローできない現実を思い知らされるばかりだった。
 翌日も、朝から落ち着かずにあれこれと考えていた。
 まさか、そのとき撫由が、第三者に連れ去られているとは考えもせずに。

 夏穂はいつもどおり仕事をしていたが、半分上の空だった。昼の休憩に入って、近くの喫茶店に一服しに出かけた。
 席に座り、コーヒーを頼むと、ぼうっと遥哉と撫由のことを考え始めた。
 すると、新しい客が来て、夏穂の隣の席に座った。別に気にも留めていなかったのだが、その客が携帯で小声で話し始めると、聞くとも無く内容を聞いてしまった。
「連絡が無いから、どうしたのかと思ったわ。……上手くやったじゃない。後は頼んだわよ。私の部屋に連れてきて。……え?勿論、私は部屋で待ってるわ」
 隣の客はそう言ってから、電話を切った。
 なんだか、ヘンな雰囲気だなと夏穂はその客の顔を見た。
 見覚えのある美人だった。
 美人に似つかわしくない、電話でのボスのような指示の口調は、何かわけありだ。さて、この美人、一体どこで見かけたんだろう。夏穂はしきりに考えていたが、ついに、出てこなかった。
 その美人は、頼んだ紅茶を飲みながら、雑誌を広げて優雅にくつろいでいた。
 心なしか、機嫌が良いように感じる。何か良いことでもあったというのだろうか。
 夏穂は時間を確認すると、立ち上がった。休憩時間が終わる。
 喫茶店を出て、休憩を終えてレジ業務に就いた。

 しばらくして、夏穂はふと思い出した。
 あの美人。
 遥哉と一緒に歩いていた。腕を絡ませ、仲良さそうに、そう、何度か見かけた。
 名前まで知らないが、彼女は、遥哉の行方を知らないだろうか。しまった。もっと早くに思い出していれば、遥哉のことを聞けたのに!




「どうするんだ、遥哉」
 山田が運転席からぶっきらぼうに聞いてきた。遥哉は切れた携帯を握り締めたまま、押し黙っていた。
「お前の知り合いなんだろう? お前のせいで撫由お嬢様が連れ去られたと……」
「言わなくたって、わかってるよ、先生」
 遥哉は苛立たしげに言った。
 流詞が撫由を連れ去った。その真意はなんだ。なぜそんな犯罪まで犯して、オレに何を考えさせようというんだ。
 考えているうちに、流詞の言葉を思い出した。
『これはオレからの忠告。さっさと文緒さんの所へ戻れ』






 

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