good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「恋するオトメ」

(1)就職したい

 人の多さにびっくりする。ビルの高さにびっくりする。騒音のひどさにびっくりする。
 もう、びっくりしてばかり。キョロキョロしてると、田舎者だってバレてしまうけれど、どうしても周りを見渡さずにはいられない。都会って、視界も悪けりゃ、聴覚も当てにならない。
 さっきも自分のケータイかと思ってバッグを探っていたら、隣のオジサンのケータイの音だったという、恥ずかしいミスをしてしまいましたよ。もう、どうしてオジサンがオレンジレンジなのよ。信じられない。

 駅前じゃ絶対に分からないから、ハチ公前で、なんて言った幼なじみの高村空(たかむら・そら)を恨むわ。ココこそ、どこに誰がいるかわかんないじゃないの。騙されたわ!
 幼なじみのくせに、空は、大学時代から数えて6年もこの町で暮らしている。はっきり言って、あんまり頼りたくないヤツだけど、この際しょうがない。

「歩、お待たせ」
 背後から肩を叩かれ、びくつく私に、空はニヤッと笑った。
「遅いじゃないのよ」
「まーまー、アルバイト、探して来てやったんだよ。就職浪人さんのためにね。」
 くっ。

 私、澤田歩(さわだ・あゆみ)は教育大学を出たものの、教師としての就職口が過疎化している田舎には無く、哀しいかな就職浪人という状況に甘んじている。都会の大学を出てさっさと就職を決めた空に、こうして頼らざるを得なくなった。
「喜べよ。通訳のバイトがあるんだ」
「え、ほんとっ!!!」
 マジで嬉しい。英語で仕事できるなんてっ!
「日本企業が主催する外国人留学生のパーティだよ。半分以上英語圏の人だから、歩にはちょうどいいだろ」
「うんうん。ありがと。さっすが空、長い付き合いだけあって、私の気持ちがわかってくれるわね!」
「どうせ、金髪・碧眼の恋人募集中〜ってな看板ぶら下げていくつもりだよね」
「なによ。そりゃ、ちょっとは期待してるけども〜〜〜」
 図星だった。

 すると、空は平気な顔をして言う。
「なんで、僕じゃダメなの? カレシにしてよ」
 おい、カレシいない暦9年の私に向かって、そんなこと言わないでよっ!
「あのね、あんたは幼なじみなのよ。そーゆー目で見れないの」
「えー、僕は見れるよ。見ようとしてないだけじゃないの?」
 空ってやつは、昔っから、本気か冗談かさっぱり分からない口調で、私を口説いている。多分冗談だろうと思うけど。
「こーゆー、マメな男がカレシだと、結構、お得だよ〜」
「はいはいはいはい。考えときます。死ぬまでにね」
 そんな私の答えに、ゲラゲラ笑っている。やっぱり冗談なんだろうなあ。もう、からかうのはやめろっつーの。
 ちょっとは本気かなって、考えてしまうことだってあるんだぞお。

 私たちは歩いてどこかに向かっていた。
 どこに向かっているのかは、私にはさっぱり分からない。人波に乗って、歩き続けた。
「でさ、本命の、講師のクチの方は、どう?」
 私は恐る恐る、空に聞いた。
 空はかわいい二重の目で意味ありげにチラっと私を見た。
「何よお」
「ん? べつに。 もし講師の口紹介したら、僕には何がもらえるんだろうって思ってね〜」
「あー、焼肉おごるから」
「そんなんじゃダメだなあ」
「何、何だったら納得するの?」
 空は急に私の手を取った。
 そして、私とあまり変わらない身長のくせに、顔を近づけてきた。
 空は言った。

「僕が困ったときに、助けてくれると約束してくれる?」

 なんだ、かわいいこと言うじゃない。
「いいよ。そんなこと、当たり前だもん」
 すると、どうだろう、空の目の色が変わった。輝いたという表現が一番ピッタリだ。
「助かった! 絶対だよ、歩、今言ったこと、忘れんなよ!」
「ん? うん…?」

 その後、何か分からない狭い店で、おいしいと言われるケーキをご馳走になった。
 空は終始ご機嫌だった。



 空に見つけてもらった、派遣のバイトの日だった。
 外国人さんたちとは言え、留学生。さすがにみんな日本語がうまい。私の通訳の仕事は、とってもヒマだった。
 自然と、男性の品定めに目は移ろう。
 思ったより、イイオトコって少ないんだなあ。鼻が高すぎたり、赤ら顔だったり、太っていたり、背が低かったり…。
 うーん、たいした収穫は無しかぁ。
 そう思っていたとき、さっきからモジモジしていた、ちょっと頭が禿かかったオジサンが、ウェイターに話し掛けた。
「Could you tell me the way yo the nearest subway entrance?」
 相当急いでいるらしい。時計を必死で見ている。
 ようやく私の出番かしら〜。
 道の説明でしょ、かんたん、かんたん…あ、私、この辺の交通機関、全然わかんないや。
 ま、とりあえずウェイターさんに聞いて、通訳すれば…。
 私がそのオジサンとウェイターの側に行こうとすると、ウェイターがペラペラと話し出した。
「Subway station?」
「Yes.」
「Go across that main street,turn right the first stoplight,and please go down to the first basement.You'll find the subway entrance.」
 おー、すっごい、ネイティブっぽい発音。やるな、ウェイター。
 Thank youを繰り返して、出て行くオジサンに、You're welcome! と涼しげな口調のウェイター。

 ウェイター。

 ウェイター…。

 背が高く、180センチはゆうにある。ガリガリではないが、筋肉質という風にも見えない。奥二重で茶色の瞳は外国人の中にあっては、薄すぎるのだが、すっきりした小顔と、落ち着いた優雅な手の動きはとても艶やか。
 ちょっと待って。
 日本人って、こんなにかっこよかったかしら。

 そのウェイターを凝視してしまっていると、当然ながら目が合ってしまった。
 彼はそばにやってきて、私の隣に立った。
「オレと同じ派遣会社から来てるんだろ?」
「え? そうなのかな?」
「そうだよ。」
 近くで顔を見ると、ますますその顔に惹きつけられた。
 ピアスが外された跡がいくつもある。身近な男友達のような、流行のウェーブの髪型ではなく、目の色と同じ茶髪でストレート、やや短めのおとなしい髪型だった。細く小さな顔とあいまって、少年ぽいイメージすらある。

「オレ、南丘瑠貴(みなおか・るき)、瑠貴でいいよ。…あんたは?」
「え? 私? 私は…」

 うわぁ、笑った……。
 か、かわいすぎる。 

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