この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています
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| 「恋するオトメ」 (10)結婚しろよ 「もう無理だよ。これ以上待ってても無駄だわ。瑠貴、溺れてるに決まってるよ。怪我してるんだよ?」 私が半ばヒステリックに空に向かって言うと、彼は静かな目で私を見ていた。 「運動神経のいい瑠貴が溺れてるとは考えにくいけど。歩がそう言うならレスキューでも呼ぶかい?」 事が大きくなると、今の瑠貴には良くない。わかっているけど、もしも命に関わることになってたらどうするの? そんな私たちの騒ぎに、周りのサーファーたちが集まってきた。 「黄色いボードに乗ってた? ああ、瑠貴だろ?」 よかった、顔見知りがいた。 「そういえば、しばらく見ないな。どこに行ったんだろう」 「瑠貴なら、大丈夫だよ」 「ケロっとした顔して帰ってくるよな」 「でも、もう夜だし、いままで沖から上がってこないっておかしいじゃない」 私はサーファーたちに食ってかかった。 彼らはたじたじとなっていた。 それは私も気づいてる。ちょっと顔が引きつってるのもわかってる。浜辺にヒール履いてやってきている女が騒ぎ立ててるのは滑稽かもしれなかった。 すると、私たちの背中の方でボンという音がした。 車のドアを閉める音。そう気づいて私が振り返ると、自分の車にボードを積んでいる瑠貴がそこにいた。 「瑠貴!」 私も空も同時に叫んだ。 ところが瑠貴は、そんな私たちの態度にも驚く様子はなかった。 「おそろいで、デートですか」 瑠貴は平気な顔でガムを噛んでいた。 「デートの予定はキャンセルだ、誰のせいだと思ってるんだ」 空が怒って言った。 「お前を探してここまで来たんだぞ。何してるんだ、自宅謹慎中のはずだろう」 「ああ、そうだっけ。忘れてた」 「怪我してるくせに、大丈夫なのか?」 「あんなの、怪我のうちに入らないから、大丈夫」 空と瑠貴とが言い合っている間、私は安堵からか、言葉が出なかった。 「無免許のくせに、運転させないぞ」 空は瑠貴が運転席に座ろうとするのを、割り込んで運転席に座った。しょうがなく瑠貴は後部座席に座る。 私はようやく、置いていかれるのに気づいて、車に駆け寄った。 助手席に座りながら、後ろを見て、瑠貴の無事を目で確かめた。 瑠貴は何も言わず、私の視線を受け止めていた。 空は瑠貴に道を聞きながら運転していた。 大きな道路に出て、大体の道筋がわかった空は、再び話題を戻した。 「明日から外へ出るなよ」 「どうして?」 瑠貴は憮然として聞き返した。 「どうしてって、僕にケンカ売ってるか? 瑠貴」 空がムッとしてバックミラー越しに瑠貴を睨んだ。 「オレ、退学でいいんだよ」 瑠貴はこともなげに言った。 「空は瑠貴のために、一生懸命学園長にかけあってくれたんだよ。そんな言い方良くないわ」 私はやっと口を開き、後ろを振り返った。 瑠貴は私の顔を見るなり、にやりと笑った。 そして、こともあろうか、瑠貴は私にこう言ったのだ。 「こうして見てると高村とお似合いじゃん。澤田センセー」 「なによ! なんでそんなこと言うの?」 私は本気になって言い返した。 すると、瑠貴は私の方を見ずに、運転席のシートに抱きつくようにして空に向かって嬉しそうに言った。 「オヤジがもうすぐ帰国するから、オヤジから高村に言うとおもうけどさ、オレアメリカの学校に行くらしいんだ」 「アメリカ?!」 空は驚いて、ハンドルを握る手を躍らせた。 「でもまぁ、お父さんがアメリカ勤務じゃ、無い話ではないよな。」 空はそんなふうにポツリと言った。 「いいでしょ。アメリカってオレに合ってるような気がするんだ」 私はただ、二人の会話を隣でだまって聞いていた。 担任とそのクラスの男子生徒の進路の話。それだけだったら、どんなにいいだろう。 瑠貴がアメリカへ行くことを望んでいる……。 家に帰ってから、瑠貴にメールを出そうとして、出せずにいた。 すると、夜中に瑠貴からメールがきた。 <高村と結婚しろよ。高村は歩のことを幸せにしてくれると思うよ> そのメールを読んだとたん、寂しくて、ひとつ大きなため息をついた。 寂しかった。 アメリカの学校で彼らしい人生を歩もうとする瑠貴に、今の私の存在って足かせなんじゃないかな、そう思った。だから、寂しかった。 私は、彼の人生には関わらないほうがいいの? もう、お別れなの? メールを何度も打ち込んでは、言葉を消してゆく。 空はいい人。だけど本当に好きなのは、瑠貴だけだよ。 そんなメールは、結局、返せなかった。 翌日の日曜日、瑠貴に会いたいとメールをしたが、父親が帰ってきているので今日はだめだという返事が来た。 どんどん、瑠貴が離れてゆくような気がした。 そんなとき、空から電話があった。 『歩のアパートの近くの駅まで来たんだけど、どう、お昼ご飯でも一緒に』 「お昼ごはん?」 『そう。どうせ家にこもってるんだろ? ちょっと気分転換に外に出ておいでよ』 「今、デートの最中だからダメ」 『えー。それ、ウソだ』 私のウソって、そんなに簡単に見破られるのかな。そう思うとちょっと落ち込んだ。 『極秘情報があるんだけど、それも特別に教えてあげるよ。一緒にゴハンしよ』 「極秘情報?」 『そう。情報って言うか……つまり、また問題が起こったってことなんだけどね』 空は電話口でため息をついていた。 極秘情報につられてか、誰かに会って寂しさを紛らわせたかったのか、いや、それとも、空だから会う気になったのか、私自身も分からないまま、空とお昼ご飯を食べることになった。 駅前のビルにランチの美味しい店があるからと、空は私をビルの25階まで連れて行った。 フランス料理店らしい。 上質の紙で作られたメニューが台に載せられて、入り口で客を出迎えている。 見てみると、千円以下の端数は無い。 ランチが、6000円と8000円? うわぁ〜、と圧倒されている私に、空はあまりメニューを見ることも無く、中へ入ろうとする。大丈夫なの?こんな店、しばらく来た事が無いよ。 「よく、こんな店知ってるわね」 私は空の耳元でささやく。 「本に載ってるよ。一度来てみて、良かったからね」 そうなんだ。 御用達ってわけではないんだ。 そこが、空の気取ってないところなんだけど。 すると、空は私を見ないで独り言のようにつぶやいた。 「デートには、下準備が大切なんだよ」 え? デート? ランチを一緒に食べるだけでしょ。 えっと……。 それってもう、デートの範囲なのかな……。 っていうか、下準備? わざわざ、私とのランチのために? ……ちょっと嬉しいかも……。 全席窓側というこだわりよう。そして、ほぼ満席。当然のように私たちは予約席の札が立っていたであろう、景色が見えやすく少し落ち着いた端の方の席に案内された。 席について、その景色を堪能する。昼間でも十分、おなかいっぱい景色を楽しめる。 「私がランチの誘いを断ってたらどうなってたの?」 おそるおそる空に聞いてみた。 「僕が一人で寂しくここで景色を見てるだけだよ」 そう言って、なぜかおかしそうに笑った。 「そんなことはありえないと思ってたけどね」 「え、ちょっと自信過剰じゃないの?」 「そうかな」 空の笑顔は、嫌いじゃない。 オーダーが済んで、わたしたちはしばらく窓の外を眺めながら、話をしていた。 こんなに高そうな店の中なのに、空といると、昔から知っている場所のように自由でいられる。緊張もしない。それは空がずっと笑いかけて、昔のつまらない失敗談なんかを持ち出して楽しくさせてくれているからなんだと後で気が付いた。 料理がきて、食べている間中も楽しい話ばかりで、本題の極秘情報には触れようとしなかった。私が何度かその話を持ち出しても、笑って流されてしまった。 さては、ガセネタだったのかな。 昼間っから赤ワインで少し頬を赤らめた空は、機嫌よく席を立った。お酒に弱い空は、多分もう十分酔っているはず。私の手をとって、指を絡めてしっかりにぎりしめた。 「ちょっと空!」 「店を出るまでの数歩だけだよ。倒れそうなんだもん」 「うそばっかり!」 へへへと笑う空は、やっとその手を離して会計にカードを渡した。 私は店の外で待っていた。 出てきた空にご馳走様を言って、後を付いて歩こうとすると、空が顔を寄せ、耳の傍でこう言った。 「あさひ、……湊あさひが妊娠したらしいんだ」 あさひって、あの、瑠貴にひっついて歩いてた……? その子が妊娠した?! |
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