good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「恋するオトメ」

(4)お願いします

 茶道部の部室は、歌でも詠みたくなるような風流な景色が窓の外に広がっていた。
「な、いい眺めだろ? うちの高校のデートスポットだよ」
 相変わらず笑顔の高村空は、部室にしっかりと内側から鍵をかけてしまった。
「ちょっと、空、一体どういうつもりよ!」
 二人きりになると、私は空に向かって、いつもの調子で食って掛かった。
「どういうつもりって……。あの槌田先生とあのかび臭い生物室で食事したかったの? 僕はそんな状況から救ってあげたんだよ? 感謝してもらっていいんじゃないの?」

 まあ、確かに。方法に問題はあるものの、助かったと言えば助かったかな。

「あのさあ、なんか空の取ってる態度に、疑問を感じるんだけど……。私を偽者のカノジョに仕立て上げたいわけ?」
「そう、その通り。それが僕のお願いなんだ。講師のクチを紹介したら、困ったときに助けてくれるって言っただろう? その約束を果たしてもらいたいだけなんだよ」
 空はコンビニで買った弁当を食べながら、桜の花に見とれていた。
「なに、それって、槌田先生から逃げたいとか?」
 私が聞くと、高村空は、お箸を置いてまで笑顔で拍手した。
「大当たり!」
 まったく、子供じみた方法だわ。
「男ならきっぱり断ればいいじゃない」
「そうもいかないんだよ。教師同士のしがらみっていうかさ〜。職場の雰囲気悪くなるしね〜」
 なんでよ!
 それなら私の立場はどうなるのよ。いろんな人に誤解されちゃうじゃないのよ!
「ダメ? じゃあ、せっかくの講師の職も、あっさり諦めるって……?」

 ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ……。
 今なら、瑠貴に毎日公然と会える。仕事中に会えちゃう。めっちゃおいしい仕事なんだよね。でも、空のカノジョっていう烙印を押されちゃうと、瑠貴は私のこと信じてくれるのかな……。
 どっちにしろ、この高校、結構男女交際に関して甘い気がするし、それなら、学校での瑠貴と、デートするときの瑠貴の両方を堪能できて、仕事するのにも張り合いができるってもんだしな……。

 黙りこくって考える私を、空はさも楽しそうに見ていた。
「ふふふ、歩、カンガエチュウ…。脳みそフル回転で、損得を勘定してますね〜」
「ちょっと、茶化さないでよ!」
 怖いのは槌田先生の私に対する攻撃。それから、瑠貴との仲が悪くなったりしたとき、仕事しづらいってこともあるし……。

「あのね、空」
「はいはい。答えは出た?」
「私、ちゃんとカレシいるから。その人に誤解されると困るのよね」
「ああ」
 空はかわいい目をぱちくりさせて、私の顔を見た。
「瑠貴?」
「えっ……っ!!」
 な、なんでわかるのよ!
 空はニヤリと笑った。
「図星だろ。いいよ。黙っておいてあげる。教師と生徒の恋愛なんて、発覚すると絶対教師がクビになっちゃうからね〜」
「ち、違うわよ。生徒なんかと……。第一、今日初めてこの高校に着任したのに。違うわよ」
「ふう〜ん」
「違うってば。私高校生なんかに興味ないんだから……。お酒も飲めないし、車も運転できないし……そんな子供なんかと付き合うわけないじゃないっ!!」
「へええ」
 空はずっとニヤニヤしていた。

「僕、生活指導もしてるんでね。瑠貴がどういうヤツか、よく知ってるよ」

 困った。……バレてる。


「瑠貴はねえ、モテるよ。ちゃんと監視しとかないと、すぐほかの女の子に取られちゃうと思うなぁ」
「えっ、そ、そうなの?」
「そうだよ。知らなかったの?」
「だって、昨日会ったばっかりだし……。そのときは大学生で、カノジョはいないって言ってたから……。」
「ふふふ」
 あ、しまった……。空に弱みを握られてしまった。

 そのとき、私の携帯が振動し、メールの着信を知らせた。
 瑠貴からだった。
「なんだい? 瑠貴からのラブレターですか?」
「う、うるさい。ちょっと、ほっといてくれる?」
 メールを読んで、ちょっとドキドキした。
<どこにいるの? 探してんのに。
 会いたいんだけど、ダメ? ムリ?
 北校舎の屋上で待ってるから。>

 私は寿司桶も部室に放置したまま、急いで北校舎を探して、屋上へ向かった。
 背後から、空の声が聞こえた。
「いってらっしゃ〜い。僕との約束だけは絶対守ってよ〜。よろしく〜!」


 しょうがない! こうなったら、学校にバレてクビになるまで、とことん行ってやろうじゃないの!


 重たい鉄製の扉を押し開けると、そこは風の強いまぶしい世界だった。
 すぐに、瑠貴の姿が目に入った。
 瑠貴は私が屋上に来ると、扉を閉じて、誰も開けられないようにコンクリのブロックを数段、扉の前に置いた。
 それから、立ち尽くして瑠貴のすることを見つめているだけの私に、近づいてきた。
「歩……」
 瑠貴に突然抱きしめられて、ちょっとびっくりした。

「なんで、あいつといつも一緒なの? 高村とどういう関係?」
 ぎゅうっと抱きしめられていると、息苦しくて、声が出ない。
 でも、瑠貴の鼓動はよく聞こえた。
 速く、強い音がする。
「高村のカノジョだってみんな噂してるけど。マジ?」
 私はなんとか首を横に振った。
「今、話、するから……」
 やっとそれだけ言うと、瑠貴は腕の力を緩めてくれた。
「ごめん、痛かった?」
 まるで小さな子供のように不安そうな顔をして、瑠貴は私を見つめた。
「大丈夫よ」
 いや、結構痛かった。でもここはそう言っとこう。
「空とは幼馴染なだけよ。一度も付き合ったりしてないし、もちろん今も単なる友達」
 瑠貴は私の目を見つめて真偽を確かめていたようだった。
「そうか。わかった。高村のやつ、槌田から逃げたくて、歩をダシに使ってるんだな」
 瑠貴は視線を外の景色へと移すと、納得したようにつぶやいた。
「そう、その通り。空には借りがあるから、しょうがないのよ」

「歩……」
 瑠貴は、また私の体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
 さっきに比べると、幾分優しかった。
「あのさぁ。オレが嘘ついてたこと、怒ってる?」
 大学生って言ってたもんねぇ。
「怒ってないけど、びっくりした」
 まさか、仕事場で会うとは思ってもみなかったし。
「オレのこと、嫌ってない?」
 なんでそんな、頼りなげな顔をするの?教室で見る顔と全然違うよ?
 もっと強気でいいんじゃないの?
「嫌ってないよ」
「じゃあ、好き?」
「う〜ん、……うん。好きかな」
「よかった。別れるって言われたらどうしようかと思った」
 そう言って私の首元に顔をうずめる格好は、まるで、ライオンの子供だ。
 私にじゃれ付いてくるし、かわいいけど、やっぱり強いっていうイメージがある。
 ちょっとコワイって思う。
 お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「ねえ、教室に戻らないと……」
「うん……」
 そう答えるものの、瑠貴は私を抱きしめている手を緩めようとはしなかった。
 困ったな。
 そう考えていると、すっと瑠貴が顔を上げた。

「5限は高村の授業だ。行かねー」

「行かねー? じゃあどうするの?」
「茶道部の部室で……」
「サボる気?」
「えっちしようか」



「しません!!!!」



 私は瑠貴をどんっと突き飛ばして、階下へ降りるための鉄製のドアを開けようとした。
 しかし、積んであるブロックで、びくりともしない。
 私は瑠貴を振り返り、怒った顔で、ブロックを指差した。
 瑠貴はしゅーんとなって、ブロックをどかせ始めた。
「昨日も出来なかったしなぁ……」
 瑠貴はそんなことをつぶやいていた。
 ブロックをどかせ終えると、私は一人でずんずんと降りていった。
 振り返ると、瑠貴が扉の所から、じっと私を見つめていた。
「ちゃんと授業に出なさいよ!」
 私がそんなふうに声をかけると、瑠貴は大声で返してきた。
「高村の授業なんて、絶対に行かねー!!! 今度会ったらあいつ、ぶっ飛ばす!!」


 なんだかわからないが、学園内のあらゆる場所で火花が散りそうな予感がする。

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