good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「恋するオトメ」

(8)一緒に暮らしたい

「プ、プロポーズ??」
「そう、プロポーズ」

 空は平気な顔でそう言って、私の目を覗き込んだ。
「冗談言わな……」
「わかってるって」
 空は私に皆まで言わせようとしなかった。
「噂だよ、噂。そーゆー噂を流したらどうかなと思っただけだってば」
 そういう噂を流したらどうなるか、わかってるの?

「ほら、歩は瑠貴との仲を疑われずに済むし、僕は槌田先生から逃れられる。一石二鳥」
 生徒はそんな話、大好きなんだからね。
 プロポーズなんてネタ、あっという間に広がっちゃうよ。
「だめだめ、そんなのダメ。もっと別の解決策を考えて!」
 私が首を横に振ると、空は私を椅子ごと自分の方に回転させて、真正面を向かせた。
 そして、びっくりするくらい顔を近づけて、こう言った。
「別の解決策があるなら、考えてごらんよ」
「う、う……」

「実はさ、さっきの案だと、一石三鳥なんだよね」
 どちらかというと童顔な空は、にっこり笑うと、私より年下に見える。
「三鳥って、ほかに何があるのよ」
 そう言ったとたんに、空の唇が私の唇と重なった。
「……!!!!!」
 ちょっと何してくれんのよーーーーーー!!
 そう思ったのに、ほんのり優しい空のキスに、一瞬、防御できなかった。

「僕にとっては、思いが通じることになるから、一石三鳥」

 そ、そんなこと言って……。
 それは、冗談じゃ……ないの?

「本気で言っていいかな」
 え、良くない良くない。
「講師の任期を終えたら、僕と結婚してよ」
 顔の間近でそんな言葉言われたら、抵抗できないじゃない。
 ダメダメダメダメ、私には瑠貴がいるんだから。
 大体、プロポーズって付き合ってから言う言葉でしょう。私たち、付き合ってもいないんだからっ!

 その時、バタンという音がした。職員室の出入り口付近だった。
 さっと目をやると、誰かの影が走って逃げるのが見えた。
 空はその影の後を追って出入り口まで走っていったけれど、すぐに戻ってきた。
「生徒、まだ残ってたんだな」
 空は苦笑いしていた。
 てゆーことは……。
 生徒に見られた?
 空と私がキスしてるところも?
 ちょっと、どうしてくれるの?空、このままじゃ、本当に噂になっちゃうよ〜〜。



 その日の夜、瑠貴からメールが来た。
<すっごい嫌な噂耳にしたんだけど、今から確認にそっちへ行っていい?>
 きゃぁ、瑠貴、もちろん、あのことだよねぇ。どうしよう。
<ちょうど、聞いて欲しいこともあってさ>
 なんだろう。

 しばらくして、瑠貴が私のアパートにやってきた。
 ドアを開けると、なにげに機嫌の悪い顔つき。
「いらっしゃい。どうぞ」
 瑠貴は無言で部屋に上がりこむ。
「歩、浮気してねーよな?」
 瑠貴の第一声がそれだった。
「う、浮気……?」
「ん? 浮気じゃなくて本気なのかな」
「な、なんの話よ」
 とぼける私。知らないで通してやる。
「何の話って、高村とキスしたときの話だよ」
 瑠貴の目がキラリと光る。ただじゃすみそうもない。
「そんなこと、私がするわけないじゃない」
「ほんとに?」
「あ、当たり前よ」
「ちゃんとオレの目を見て言ってくれよ」
 私はキッと目を吊り上げて、瑠貴を見つめた。
 そうよ、私は好きでキスしたんじゃない。キスっていうよりあれは、単なる挨拶……いや、衝突?……ていうか、空の勝手な行動なんだから。私が責められることないのよ。
「キスなんてした覚えはございません!」
 私がはっきりとそういうと、瑠貴はほっとした笑顔で私を抱きしめた。
「よかった……」

 瑠貴はベッドに私をそっと押し倒すと、私の真上からそっと包み込むようにして、私を抱いた。そしてキスをして、言った。
「一緒にここに住みたいんだ」
 瑠貴はトクントクンと心臓を鳴らして、そう言った。
 それはダメよ。決まってるじゃない。
 私が何も言う前に、瑠貴は寂しそうに私から離れた。
「わかってるよ」
「瑠貴……どうしたの? 一緒に住まなくたって今まで楽しくやってこれたじゃない。いつでもここへ来ていいのよ。でも一緒に住むのは無理でしょ?」
「うん。……だけど……今日みたいな噂があると、心配だし、一秒だって離れてたくないし……それに……」
 ちょうどそのとき、私の携帯が鳴り出した。
 着信は高村空。
 正直いって、今は一番かけてきてほしくない相手だった。
「出ないの?」
「で、でるわよ」
 私は意を決して携帯を耳に当てた。
「もしもし?」
『あ、歩?あのさ……明日の土曜、空いてない?』
「明日? 何か用事でも?」
『一緒にディズニーシーへ行こうよ。まだ行った事ないだろ?』
「ディズニーシー?」
『そうそう、ランドのほうは2回行ったからさ、今度はシーに遊びに行こうよ』
「あ、あのね。一緒に行ったって言うけど、あれは大学時代でしょ。ほかの友達もいたし……。東京まで出てくるのが楽しくて、そりゃ嬉しかったけどさ」
『仕事も一段落ついたんだろ?いいじゃん。遊びに行こうよ』
「だからぁ……」

 ふと気づくと、瑠貴の姿がなかった。

 ドアが半分開いたまま。
 瑠貴は出て行ってしまっていた。
 私は携帯を切ると、いそいで部屋の外に出た。
 大声で瑠貴を探し回ることはできない。目でアパートの周辺を探しながら、瑠貴に電話をかけた。
「瑠貴、どうしたの?帰っちゃうの?」
『いいんだ。明日、高村と遊びに行けよ』
「え? なによそれ」
 瑠貴の姿はない。多分、また無免許で車をとばして行ってしまったんだろう。
『オレとじゃ、そんな場所に遊びに行けないもんな』
「そんな……」
 ばかなこと言わないでよ。私は瑠貴と一緒なら、どこにも行けなくたっていいんだから。
 そばにいてくれるだけでいいのに。
 楽しいのに。
 幸せなのに。


 しかし、それから2時間後、最悪の連絡が回ってきた。
『歩っ!』
「なによ、空」
『一緒じゃないのか?』
「え? 誰と?」
『瑠貴だよ。……警察から連絡があったんだ……』
「なんっ……」
 私は目の前が真っ暗になった気がした。

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