この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています
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| 「恋するオトメ」 (9)孤独なフィッシュ 土曜日、星成学園で朝から緊急の職員会議が行われた。 瑠貴は一体何をしたの? 私は、瑠貴の担任で警察まで事情を聞きに言った空とは違い、不安におびえていた。 空は電話では、大丈夫だから、としか言ってくれなかった。 学園長の話は、簡潔に言うと、瑠貴は停学一週間だということだった。 警察に通報があったのは、駅前のゲームセンターで高校生らしい集団がケンカをしているとの内容だったらしい。ふたを開けてみれば、星成学園高等部1年中堂以下5名が、2年の南丘瑠貴に集団で暴行を加えていたらしい。 え、あの瑠貴が中堂にやられる? 私は耳を疑ったが、瑠貴は全治3週間の怪我を負い、中堂たちは無傷だったらしい。 「学園長、おかしいですよ。瑠貴は暴行を加えられただけで、一切殴り返していないんですよ?」 「ケンカ両成敗、それはよくわかってるでしょう、高村先生」 「しかし……」 「中堂たちは相手が南丘だから事件を起こしたわけですよ。それはつまり、南丘に責任があるんです」 学園長はそっけない言葉を吐いた。 「瑠貴は最近おとなしくなり、反抗することもなくなり、勉強も熱心になりました。多分今回の前期模擬テストでも上位になることは間違いないです。明らかに以前の瑠貴とは違うんです!」 空は必死で食い下がった。 「だからこそ」 学園長の声が一段と大きくなった。 「だからこそ、停学一週間ですんだんですよ。本来なら退学処分でもおかしくない。我が校の名誉は非常に傷つきました。新聞にも載ってしまうような大きな乱闘事件を起こしたわけですからね」 なにが我が校の名誉だ。 生徒の立場にたって考えなさいよ。 「以前が以前だけに、しょうがないんじゃないですか? 高村先生」 学園長はそう言ってニヤニヤ笑った。 「あ、それから澤田先生」 急に名前を呼ばれて、私はびっくりした顔で学園長を見つめた。 「はい?」 学園長は今度はとぼけた顔つきで、とんでもないことを言った。 「あなた、講師の雇用契約は1年毎とは決まってないんですよ。」 「は? でも、最初はそういうお話で……」 「何事もなければ、の話ですから」 私には学園長の発する言葉の意味が分からずにいた。 「生徒と付き合っているんじゃないんですか?」 「えっ!」 「あなたと南丘が一緒にいるところを見ている生徒が何人かいるんですよ」 ま、まずい。 このままでは、私の雇用なんかともかく、瑠貴に迷惑がかかってしまう。 とにかく、否定しなくちゃ。 ちがうんです。 私は、そんなんじゃ……。 でも、じっと見据えられると、何も言えなくなってしまった。学園長も、理事長も、ほかの先生方も、みんな私を見つめている。 すると、空が立ち上がった。 「学園長、その話は単なる噂ですよ。僕は信じてません」 皆がいっせいに空のほうを見た。 おかげで、私は突き刺すような視線から逃れることができた。 「なぜ噂だと言い切れるんですか、第三者のあなたが。当事者の澤田先生にまずお答えをいただかないと……」 「いや」 空は頭を振った。 「澤田先生は、僕と付き合っているので、瑠貴とうんぬんというのは、真っ赤な嘘です」 水を打ったようにしーんとした会議室で、空はゆっくりと着席した。 私と空は、瑠貴の自宅に彼の様子を見にでかけることになった。 電車の中で、私は空に言った。 「大嘘ついてくれてありがとう」 空はニヤッと笑って言った。 「あれで瑠貴も歩も助かった?」 「うん」 「一石三鳥だな。瑠貴も歩も助かって、僕は堂々と歩と一緒にいられる」 「好きねぇ、一石三鳥……」 私が呆れていると、空は上目遣いでチラリと私の目を見てから言った。 「僕は本気でいくからね」 「本気でいく?」 「うん。教え子でも、恋敵は恋敵だから」 そう言って、空は笑った。 空……。なんだかんだ言いながら、結局私たちの味方をしてくれてる。どこまでも優しくて、昔よりずっと男らしくなって……。 『本気』だって言葉に、ちょっと一瞬くらっとくるよ……。 私たちは瑠貴の家についたが、インターホンを押すとお手伝いさんが応対して、留守だと告げた。 「あの、瑠貴の部屋に通してもらうことはできませんか?」 『そういうことを言われましても、留守中は誰も入れるなとの瑠貴様のお言葉でしたので……』 「じゃあ、どこへ出かけたかわかりませんか? 彼は怪我をしているんですよ?」 空はなかなか引き下がらなかった。 「お車ででかけられたことしか分かりません。あ、……そういえば、お部屋をお掃除に入らせていただいたときに、サーフボードがなくなっていました」 私と空は顔を見合わせた。 海じゃあ、携帯も車に置きっぱなしってことかな。連絡がとれないのもあたりまえ。 もう! 怪我の具合はどうなのよ。昨日やられたっていうのに、今日はサーフィンですか。心配でずっと電話してたのに、全く出なくて泣きそうになってたんだから。 私たちは電車で移動していて、海がはっきりと見える場所までやってくると電車を降りた。この浜かどうかは分からない。とりあえず片っ端から浜という浜を探してゆくしかない。 私と空は、日を改めるという気持ちにはならなかった。 とにかく、家に連れ帰らねば。自宅で待機していてもらわなければ、教頭や学年主任らから、電話でチェックが入るに決まっている。そうして家にいないとわかったら、今度こそ退学だ、などと言い出しかねない。 ところが、ラッキーなことに、私たちはすぐに瑠貴を見つけることができた。 瑠貴の車を見つけたのだ。その浜に瑠貴はいた。 「あれ、あの黄色の板に乗ってるやつ、瑠貴じゃない?」 最初に空がつぶやいた。 今日は風が強く、いい具合の波があるのだろう。数人のサーファーが浜にいた。私はその中の一人、光で輝く波の間で、ボードに乗るウェットスーツの背の高い男を見つめた。 そうだ、確かに瑠貴だ。 私たちはただ、浜辺で見つめることしかできなかった。怪我をしているとは思えないほど、瑠貴は軽やかに波に乗っていた。 しかし、その後、私たちは瑠貴の姿を見失った。 どこにいるのかわからず、溺れたのではないかと思った私は、その浜から離れられずにいた。 空も、一緒に傍で、瑠貴を待っていてくれた。 いつしか、夜になっていた。 |
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