good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「お見合い結婚」 -はっぴぃ☆らっきぃ☆続編-

(10)心の声

 自分たちの部屋に戻り、改めて恵太さんの顔を見ると、白目が赤く、確かに一睡もしていないのだろうと察することができた。
 本当に仕事で遅くなったと言い張るつもりなんだろうか。私はそれを、目を瞑って信じるべきなんだろうか。
 そのことを避けて通るべきかどうか、私自身迷っていた。
 夫婦の間に嘘や隠し事があるのは嫌だ。

 でも、わたしたちって、本当に夫婦って呼べるんだろうか。


 ダイニングでテーブルを前にして、私は考えたまま、立ち尽くしていた。恵太さんがそっと後ろに立っていたことにも、気づかなかった。
「未散?」
「え?」
 振り向いたとき、恵太さんは目の前にいて、恵太さんのにおいが私の鼻腔をくすぐった。
「どうかした? 元気ないね。」
 そっと恵太さんは私を抱きしめてくれた。私は、優しく頭を撫でてくれる彼の顔を見上げられずにいた。
 無言のままの私に、恵太さんはゆっくりと腕を離し、私の顔を覗き込んだ。
「未散? しんどいの?」
 なんとか首を横に振ると、恵太さんの目を見て、声に出さずに訴えかけた。
 私の言いたいこと、わからないよね。

「なんかヘンだな。せっかく二人きりなのに……。」
 恵太さんは私から一歩退くようにして、私の様子を見つめた。
「恵太さん、寝てないんでしょ?ゆっくり眠っていいよ。」

 私の言葉に、少しの間を置いて、恵太さんは私の手を取って言った。
「一緒に行こうよ。未散の傍で眠りたい。」
 恵太さんは、寝室へと私を連れてゆく。
「私は眠くないし……。」
「一緒にいてくれよ。」
「でも……。」
 私は少しずつ力を入れて、手をほどこうとした。
 私の抵抗に、恵太さんは立ち止まった。

「オレは未散を抱きたいんだ。ダメなの?」



 恵太さんは……、

 恵太さんは、本当は誰のことが好きなんですか……。


 口に出して言えない言葉が、頭の中を駆け巡る。




「迎えに来るのが遅くなったから、怒ってるの?」
 恵太さんは諦めたように、私の手を離した。
 それきり、恵太さんは黙ってしまった。

 沈黙が続いた。
 恵太さんは、一人で寝室へ行こうとした。

「誰と……朝まで、誰と……?」
 私の声は小さく、蚊の鳴くような声でつぶやいていた。
 恵太さんに聞こえても、聞こえなくても、どっちでもいいような、そんな気分だった。
「え? 今、誰とって訊いた?」
 恵太さんは、私を振り返った。
「恵太さん……。」
 私は恵太さんの顔を見て、胸の辺りがすぅっと冷たくなるのを感じた。
「来海さんと一緒だったんだよね?」

 とうとう、訊いてしまった。

「来海さんのこと、今でも好きなの?」
 私はもう、恵太さんの顔を見ることができない。
「最近ずっと仕事で忙しいって言ってたのも、本当は来海さんと会ってたんでしょう? やっぱり来海さんのことを放っておけないんでしょう? 私じゃ、ダメなんでしょう。 結婚したっていっても全然そんな雰囲気じゃないし、恋愛してるより寂しいもん。恵太さんが浮気したって、しょうがないんだよね、私が悪いんだ。そうなんでしょ?」
「未散……。」

 恵太さんはゆっくりと近づいてきて、私の両手を包み込むようにして自分の胸元へと引き寄せた。
 私は、恵太さんの大きな手のぬくもりに、自然と顔を上げていた。
「何を考えて、そんなこと言ってる?」
「だって、私、見たんだもん……。」
「何を?」
「何をって……恵太さん、全然心当たり無いの?」
 そう言うと、恵太さんは視線を上げて、何かを考えていた。そして、私のもとに視線が戻ってきたとき、その答えは顔に書いてあった。
 ひどく疲れた顔で、私を見つめた。

「確かに、未散には、嘘をついた。」

 恵太さんのそんな顔は、見たくなかった。だから、思わずうつむいて目を閉じた。
「でも、オレにとって一番大切なのは、未散なんだよ。」

 そんなことを言われたってどうしたらいいの。
「恵太さん、来海さんを抱きしめてたじゃない……。」
「抱きしめた?……それは……あぁ、あの時は……」
「仕事で遅くなったんじゃないでしょ? 来海さんとずっと一緒だったから、迎えにこれなかったんでしょ? そうなんでしょ!?」
 恵太さんは私を見つめたまま、黙り込んでしまった。

 そんな恵太さんのことが、憎らしくて、私は子供のように、えーんと声を出して泣いてしまった。
 すごく恥ずかしい。でも、言葉を全部吐き出してしまうと、もう後は感情しか残っていなかった。
 恵太さんの嘘を許せなかった。
 恵太さんに腹が立ってしょうがなかった。
 恵太さんが目の前からいなくなってしまえばいいと思った。
 恵太さんが私を見ているのが嫌だった。
 何も言ってくれないことが寂しかった。

 恵太さんなんて、大嫌いだ。
 どこかへ行ってしまえばいいのに。
 どうして?


 どうして、恵太さんは私を黙って抱きしめるの?
 泣く子を黙らせる両親のように、ぎゅうっと、何も言わずに抱きしめる。

 すると、心が温かくなって、なぜか涙も止まる。
 私が落ち着いたのを見計らって、恵太さんがつぶやいた。
「ごめんな。」

 寂しい一言だった。

 私の口からは、思ってもみない言葉が出てきた。
「離婚して欲しい?」
「えっ?!」
 恵太さんは驚いて、抱きしめた腕をこわばらせた。
「ちょ、ちょっと、待って……。」

「恵太さんが幸せになるなら、……離婚してもいいんだよ。」

 私は本気でそう思っていた。

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