good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「お見合い結婚」 -はっぴぃ☆らっきぃ☆続編-

(11)冬空を見ながら

「恵太さんが幸せになるなら、……離婚してもいいんだよ。」

 私がつぶやくと、恵太さんは驚いて私を抱きしめていた腕を離した。
 そして、私の両肩に手を置いて、私の顔を覗き込んだ。
「な、離婚してもいいって……、なんでそんなことが言えるんだよ? オレたち、まだ二人でどこへも行ってないし、何にも築き上げてない。何にも始まってないのに……。」
 私は恵太さんの顔を見なかった。目を瞑ったまま、苦い気持ちを抱えていた。
「もしかしてオレの浮気を疑ってるの?来海と?そんなこと、絶対にありえないって!」
 目を開けると、恵太さんは心底がっかりしたような顔をしていた。
「嘘をついたのは悪かった。嘘というか、未散に隠し事をしていたのは、悪いと思ってるよ。でも、しょうがなかったんだ。ごめん。未散にも相談するべきだった……。」
 恵太さんは、私をリビングのソファに座らせると、話し始めた。
「あのね、今、ちゃんと説明するから、聞いてくれる?
 来海なんだけど、まだ、ずっと留兄と付き合ってるんだ。でも、留兄の方はいろいろと浮気が絶えない。まあ、オレなんかと違って留兄は華があるから、モテるとは思うよ。それに最近羽振りが良かったしね。」

 そういえば、ネットビジネスで、年商1億とかなんとか聞いた記憶がある。
 お父さんにぽんと500万渡したっていう話も聞いた。

「だけど、来海に話を聞くと、どうも仕事で儲けたお金じゃなくて、競馬とかマージャンとかでうまく勝てたから入った、臨時のお金でさ。本業の会社の方は来海に任せっきりだったんだってさ。まあ、自分の兄貴を悪く言いたくはないけど、あんまり真剣に仕事に打ち込むタイプじゃないからな。それで、来海には荷が重過ぎて、会社はつぶれかけ。どうしようって相談された。それだけなんだけど、やっぱ、ちょっとでも会社がそれなりに稼動できるようにって思って、オレができることならって、ここんとこ、そうだな半月くらい、仕事終わってから来海の会社の方を手伝ってた。」

 そうか。夜、仕事が終わってから私の実家に来るはずだったのに、接待が忙しくて来れなくなったって言ってたよね。それは、全部、来海さんと留太さんの会社のために仕事してたんだ……。

「でも、とうとう、倒産決定だよ。それ、ちょうど昨夜決まった。資金繰りがどうしようもなくなったからね。で、来海はもともと勝気なヤツだから、こういうとき自分が情けなくて泣きじゃくるんだけど、まあ、ヨシヨシって感じで慰めてたのかな。抱きしめたとか、そんなんじゃないよ。」
「ほんとう?」
 私は恵太さんを見上げた。
「嘘じゃないよ。好きなのは、未散だけだから。」

 私は心のそこからほっとしていた。さっきまで、悔しくて寂しくて流した涙が、今度は安堵のせいで、ほろほろとこぼれた。やっぱり恥ずかしくて、思わず顔を両手で覆った。
「黙ってて、ゴメン。親とかにバレるとまずいから。留兄と来海のことをただでさえ反対してるだろ、母さんたちは。」

 恵太さんはそこまで話すと、大きなあくびをした。
「あー、眠い。コーヒーでも飲もうかな。未散も飲む?」
「うん。今、淹(い)れるね。」



 二人でインスタントのコーヒーを飲んだ。
 ソファに隣同士に座って、窓の外の厚い雲が流れる空を見ていた。
「ごめんね。疑ったりして……。」
「いや、疑われてもしょうがないからなぁ。」

 私たちは、おでこを引っ付けて、微笑んでいた。
「離婚って言葉が出てきたときには、めっちゃ焦ったよ……。」
 恵太さんは笑って言った。
「あ〜、よかった〜。」
 恵太さんは私の唇に軽く口づけて、そして、ぎゅーっと抱きしめてくれた。
「未散、愛してるよ。」

 私は、うんと小さく頷いた。

「恵太さん、眠い?」

「う〜ん。眠い。」

「じゃあ、ベッドに行く?」

「……うん。」



「恵太さん……、恵太さん?」



「恵太さん?!」


 恵太さんは、私を抱きしめた手を緩めて、だらりと落とした。肩に乗せた恵太さんの頭が重い。
 かすかな寝息が私の耳に届いた。
「寝ちゃったの?」
 恵太さんの答えは無い。
「…………。」
 コーヒーの効き目なし。ま、いっか。
 今までご苦労さまでした。明日からは私もこの部屋にいるし、本当の仕事だけに打ち込めるから、楽になれるよ。今日はゆっくり眠ってね。
 ソファに横になった恵太さんに、ブルーの毛布をかけてあげた。

 さてさて、私はたまった洗濯をしなくっちゃ。
 家事の大半は恵太さんのお母さんがしてくれている。でも、今日からは私が、恵太さんの面倒を全部見ます。そう、今日からは……。あれ? そういえば、お母さんに今日から私がこの部屋に戻ってきたって、伝えてないわ。って言うことは……、今日もここへ来るわけね。
 しょーがない。こっちの都合で、妻のくせにこの部屋をずっと空けてたんだから。
 お母さんには感謝してます。
 一応電話しておこう。
「もしもし、未散ですけど。あ、お母さんですか? あの、今までありがとうございました。今日からこっちの部屋に戻れるようになりましたから。」
『ああ、お母さん退院しはったんやってね。恵太から、昨日聞いたわ。おめでとうございます。』
「おかげさまで、ありがとうございます。」
『退院祝いを持って行こうと思うんやけど、未散ちゃんに預けてもええかなぁ?』
「あ、いいです、そんな気を遣わないでください。」
 儀礼的な言葉のやり取りが終わると、お母さんがふとこう言った。
『あのね、留太と来海さんのことやねんけどねぇ。未散さんは知らんと思うんやけど、恵太は知らんやろうか。全然連絡取られへんのよ。部屋の電話も、携帯も現在使われておりませんって……。』
「恵太さん今眠ってるんで、起きたら聞いておきます。お母さん、今日はうちに来ないんですか?」
『恵太に、昨日、絶対来るなって言われたわ。二人っきりになりたいんでしょ。』
 そうなのかぁ。
 ちょっと嬉しいかな。でも、本人は寝ちゃってるけど。
 電話を切った後、ソファに恵太さんの寝顔を見に行った。
 子供みたいな顔をして眠っている。
 恵太さんの髪を撫でていると、急に玄関のチャイムが鳴った。
 びくっとした私の手を、恵太さんが目を開けて掴んだ。多分反射的に掴んだのだろう。
「誰?」
 目を覚ました恵太さんは私にそう尋ねた。
 でも、私にもわからない。
 再度チャイムが鳴った。私が立ち上がり玄関に向かおうとすると、ドンドンとドアを叩く音がした。
「すみません、菅野さん、いらっしゃいませんか〜? 菅野さん〜?」
 あまりのしつこさだったので、私は少し不審に思いながら、返事をした。
「はい、今開けますけど、……どなたですか?」
 恵太さんも起き上がり、私の傍へやってきた。
「誰?」
 恵太さんが私の代わりにドアを開けてくれた。
「あ。」
 相手が、何故か絶句している。
 続いて、恵太さんも相手の顔を見てあっと言った。
「あなたが菅野恵太さん?」
「あなたは……未散の……?」
 私は恐る恐る恵太さんの陰から、訪問者の姿を盗み見た。

「いや、奇遇ですねえ。」
 その声には聞き覚えがあった。
「ウチに何か用ですか?」
 恵太さんはかなり機嫌の悪い声を出した。

 そこに立っていたのは岡嶋くん。
 私の元同級生の、岡嶋誠吾くんだった。

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