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| 「お見合い結婚」 -はっぴぃ☆らっきぃ☆続編- (12)ブリーフケース 「岡嶋くん!」 思わず声を出してしまった私に、岡嶋くんが気づいた。 「おー、遠藤……とちゃうわ、……そうか、カンノ未散かぁ。」 岡嶋くんはいつもみたいに、ニヤリと笑った。でもそれは恵太さんには、あまり心象がよくなかったみたいで、 「呼び捨てにするな。」 と、吐き捨てた。 「あ、すいません、菅野さん。私、岡嶋、言うんですけど、ちょっとお話があって来たんですよ。」 「誰?」 恵太さんは相変わらずムッとした口調で、岡嶋くんを睨んでいた。 ちょっと、こんなにイライラして不機嫌な恵太さんを見たのは初めてだわ。いつも優しくて真面目な人なのに。 「えっと……」 岡嶋くんは、私にくれたあの名刺を取り出して恵太さんに手渡した。恵太さんの不機嫌な様子なんか全く意に介さないって感じの堂々とした態度だった。 まぁ、昔から、そういう人だったけれど。 「弁護士事務所の事務員さんが何の用?」 「事務員なんですけど、まあ、弁護士先生の代理なんかもやってるんですよねー。で、本題なんですけどね。いいですかね、ここでお話しても。」 「だから、何の用?」 恵太さんは後ろに回した手で、私の手を掴むと、「奥に入ってなさい」のような素振りを見せた。 私は仕方なく顔を引っ込め、恵太さんの後方で耳をそばだてていた。 カシャカシャと紙が擦れる音がする。 「まず、ご依頼の方がですね、菅野勇太郎さん、つまりお宅のお父様ですよね。」 その岡嶋くんの一言で、恵太さんはゆっくりとドアを大きく開放した。 「中へ入ってください。」 恵太さんの表情はわからないけれど、なんだか重苦しい雰囲気だ。 促されたとはいえ、岡嶋くんは部屋に入ったとたん、何の遠慮もなくソファに座った。 岡嶋くんの厚かましい態度は、私にとっては昔から慣れっこだった。でも、年上の恵太さんには耐えられないらしく、今まで見たことの無い表情で、しかも、かなりの距離を開けて岡嶋くんの隣に腰を下ろした。 「あ、遠藤……とちゃうな、奥さん、オレ、コーヒーいらない。」 書類をブリーフケースから出しながら岡嶋くんは言った。 「あ、うん。わかった。」 答えてしまってから、しまった、と思った。恵太さんが私をちらりと見た。無言のままだけど、明らかに怒りのこもった視線だった。 「えーっと、菅野勇太郎さんから三日前にご依頼がありましてね……」 岡嶋くんは紙を広げて依頼の内容を恵太さんに見せた。 「息子さんの菅野留太さんとお付き合いされているらしい、来海さんという方のことなんですよ。えーお調べしたところ、東京に住民票がある広崎来海さんで27歳、この方は以前お宅と同じ会社の東京本社で働いてらっしゃったんですよね?」 「ええ、そうですけど。」 恵太さんはそう答えながらも紙に目が釘付けだった。 「まぁ、お父様がおっしゃるには広崎さんが息子さんと一緒にいるのは、お金が目当てだと。で、息子さんの会社で働いているようなので、業務上横領なんかの疑いもあるので別れさせたい、ということでいろいろご相談をお受けしていたんですけれど……」 「……はぁあ……?」 納得いかない、でもあの父親なら、みたいな複雑な顔の恵太さんだった。 「今日留太さんのご自宅と会社とを訪問させていただいたんですけど、いらっしゃらなくてですね、緊急にご連絡を取りたくてこちらにお邪魔しているわけなんです。で、もちろん、恵太さんにもご協力をいただいて良いということは、勇太郎さんご本人から許可を得ておりますので、ご存知であれば留太さんのご連絡先を教えていただきたいんですよ。」 「いないんですか?」 恵太さんは携帯を取り出してボタンを押し、電話をしながら岡嶋くんを見た。 「いらっしゃいませんね。広崎さんは留太さんと同居されていたようなので、まあ、できれば留太さんにだけご連絡を取りたいんですけども。」 そういえばお母さんも連絡がとれないって言ってたっけ。でも、昨夜まで一緒にいた恵太さんが、留太さんや未散さんの連絡先を聞いてないはずは無い……よね? 心の底からムカついてる、そんな感じの恵太さんの目つきを初めて見た。 会社がダメになったとたん、雲隠れしてしまった留太さんと来海さんに対して、言いようの無い不信感を抱えてるみたい。裏切られたって感じなのかな。 だって、恵太さんは半月ほぼ毎日、来海さんや会社のために頑張ったのに。 恵太さんは、きっとショックが大きかったんだと思う。愚痴ることもしないで黙り込んで、岡嶋くんが帰った後も不機嫌な様子は変わらず、一人で寝室に入って眠ってしまった。 私は部屋にいると物音を立てて恵太さんを起こしてしまうかもしれないと思い、外へ出ることにした。 そして、外へ出たのにはほかにも理由があった。 部屋を出て歩きながら、私はバッグの中を探った。 岡嶋くんからもらった名刺があるはず。 私は携帯をひらき、見つけた名刺の裏に書かれた携帯の番号にかけてみた。 『……』 電話が繋がったけれど、岡嶋くんは無言だった。 「もしもし? 菅野ですけど。あの、……未散です……。」 『おおー、遠藤かぁ。誰かと思ったわ。どうしたん?』 岡嶋くんは、さっきまでの仕事用のだるそうな声と違った、明るい声だった。 「話できる?」 『ええよ。家からかけてんの?』 「ううん。家を出てかけてる。家からかけれるわけないやん。」 『えー、なんでや?』 「なんでやって……。」 岡嶋くんだって、あれだけ不機嫌な恵太さんを見てるんだから、言わなくてもわかるでしょうに! 『会おか。オレまだ駅前やし。来いや、駅まで。』 「え?」 来いって言われても……。 『オレ、この用事だけ済ましたら、家に帰るつもりやってん。子供が熱出しとってな。』 「そうなんや……」 『ちょうど良かったわ。オレも遠藤に話があってな。一緒に来れる?』 「えっ? 来れるって、もしかして京都まで??」 『ええやん。ちょっとしたデートってことで。』 相変わらず、恐れを知らない言動……。 「用事は何よ。教えてよ。」 『そっちこそ、なんで電話かけてきたん?』 「来海さんがいなくなったこと、詳しいこと分かってるんかなって思って……。」 『あー、大体分かってるよ。遠藤、じゃあ、その話しよう。京都までおいで。な。』 「ええーっ!」 私ってやっぱり岡嶋くんのペースには勝てない。絶対的に服従してしまうのは、昔の名残のせいなのかな。 まあ、京都まで帰れば、実家に行ってたっていう言い訳もできるし。 ん? 言い訳? なんで私そんなこと必死で考えてるのー? そんな言い訳しなくちゃいけないようなことなら、しなきゃいいのに。 私って……本当にもう。 駅前に着くと、正面から片手をあげて歩いてくる岡嶋くんが見えた。 重そうなブリーフケースを肩に担いでいる。 部活の後、重いスポーツバッグを抱えた、高校時代の岡嶋くんと錯覚してしまう。 こんなに姿は変わってしまってるのに。 サイテーだ、私。 「よー。来たな。」 「来いって言うたやんか。」 すねる私に、岡嶋くんがめずらしく真顔で改札を指差した。 「急ごか。親が早よ帰って来いってうるさいわ。あ、今日は、親が子供看てくれてるんやけど、親も働いてるから急いでるんや。」 「カノジョが看てくれてるんとちゃうの?」 「いや、さすがに実家にまで立ち入らへんよ。ん?妬いてるんか?」 「な、なんでよっ!!」 岡嶋くんの生活に興味があったわけじゃないけど、なんとなく、聞く羽目になってしまった。 今は共働きの両親のいる実家に、3歳の子供と一緒に住んでいるらしい。 カノジョは実はしばらく会っていなくて、カノジョの家に岡嶋くんが会いに行かないと会えないのに、なかなかそっちに足が向かないとのこと。 「多分、自然消滅やな。」 そんな風に言う岡嶋くんは、なんでもないことの様に、……まるで人事のように自分のことを話す。 元奥さんに子供を引き取ってもらえないか、交渉中らしい。 「オレには、子供の面倒なんか見られへんわ。無理やったんや。」 「なんで、引き取ったの?」 私がそう尋ねると、岡嶋くんは言葉を途切れさせた。 「めちゃくちゃかわいいからや。」 そう言ってから、愛しげに笑う岡嶋くんには、昔の高校生の面影は無かった。 私たちは京都行きの電車に乗っていた。 |
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