good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「お見合い結婚」 -はっぴぃ☆らっきぃ☆続編-

(13)つけっぱなしのテレビ

「事務所が新大阪なんやけどな、定時まで仕事すると、保育所が終わる7時までに家に帰られへんねん。」
 岡嶋くんはボソボソと話した。

 新大阪まで来ると、岡嶋くんは事務所に顔を出し、すぐに戻ってきた。
「仕事の途中でしょ? 帰らせてもらえたん?」
「おお、どうせバイト扱いやからな。たまにはわがまま言うてもええねん。」
 岡嶋くんのそんな言葉を聞くと、生活するためにはいろいろ苦労しているみたいだと感じる。でも、強引でマイペースな性格は、全く昔のまま、直しようがないのかなぁ?

「大阪に住もうと思ってんねん。」
 新大阪駅で京都行きのJRに乗り換えると、すぐに岡嶋くんは言った。
「子供はお母さんに返すの?」
 私は当然の疑問を口にした。
「多分、無理やろ。あいつはもう再婚してるし。」
「どうすんのよ。子供も一緒?」
「あー、一人暮らししたいなーー。」
 岡嶋くんは少しだけ、ほんの少しだけ悩んでいる素振りをみせた。でも、すぐに顔をあげて、またマイペースの何事にも動じない顔つきになっていた。
「子供は連れて行く。職場に近いアパートと保育所を探す。」
 そうなのか。結構、父親って大変なんだなあ。
「新大阪近辺に、いい物件無いか、探しといてくれへんか?」
「え、なんで私が?」
「どうせ暇やろ、お前。」
 もおおおお。見直して損した。相変わらずのわがままなやつっ!!

 でも、なんか楽しい。岡嶋くんとのやりとりが、昔みたいで楽しい。
 こんなこと、思っちゃいけないんだろうけれど、岡嶋くんといると、すごく楽なんだ。


 最寄り駅で降りた私たちは、駅から岡嶋くんの実家まで、タクシーに乗って向かった。
「仕事が遅くなったときなんかさ、カノジョがおったら、子供を迎えに行ってもらいたいなあっていう気持ち、わかるやろ?遠藤には、なんか、カノジョを利用してるとか思われてるみたいやけどさ。」

 確かに働きながら子供を育てるって、大変なんだろうな。

 岡嶋くんの実家には、もうご両親はいなかった。会社員のお父さんは早く出て行ってたし、看護婦のお母さんも家を出たらしい。30分前に、岡嶋くんの携帯に連絡があった。
 子供は病院へ連れて行った、薬を飲んで寝ているから、仕事へ行くと。
 私たちが、岡嶋くんの家に静かに上がっていくと、なにかかすかな音がした。奥の部屋で寝ているはずの子供が、居間でテレビを見ていた。
「修人(しゅうと)、起きとったらあかんやろ?」
「だいじょうぶ。」

 後から、岡嶋家のテレビはいつもつけっぱなしだと聞いた。
 ベビーシッターは、“テレビ”らしかった。


 かわいらしい目で私を見上げる修人くんは、濁りの無い瞳で私にこう聞いた。
「お父さんのカノジョ?」
 まだスラスラと上手に話せない3歳の子供の、挨拶がわりの問いかけが、これだった。
「ち、ちがうよ。お友達だよ。」
 私が訂正すると、
「“カノジョ”の意味って、“お友達”やって教えてるんやけど。」
と、岡嶋くんの笑いがついてきた。
 そんなことを言われても。
「子供にはちゃんと正しく教えなあかんやん。」
「イチイチ話せるかいっ。」
 そんなんでいいのかなぁ。子供を引き受けたからには、ちゃんと責任持って育ててあげなくちゃ。
 私がそう思っていると、また、岡嶋くんは見透かしたように言った。
「なんなら、遠藤がしっかり面倒みてくれてもええで。」
「はぁ?」
「恥ずかしがらんでもええやん。オレはいつでも迎えるで。」
 岡嶋くん、結構視線がまじめなんですけど。
「あほなこと……。」
 言葉につまってしまうような表情は、やめて欲しい。
 ふっと岡嶋くんの手が、私の肩に触れた。
 ビクッとして強張る私のもとに、またニコニコと修人くんがやってきた。
「おねえちゃん、今日はずっとここにいてくれる?」
 熱で少し顔が赤いのに、嬉しそうな表情を浮かべる。
 岡嶋くんは、すっと私の肩に手を置き、自分のカノジョのように体を寄せた。
「おってくれるで。修人が病気やから、ゴハンも作っていってくれるで。」
 ちょっと、まって。私は岡嶋くんのカノジョじゃないんだって。
 そんなとき、携帯が鳴り出した。
 恵太さんの携帯からだ……。

 私は岡嶋くんから急いで離れ、携帯を耳にあてた。
「はい。未散です。」
『……あ……オレ……。』
「起きた?」
『うん。……今、どこにいる? どこへ行ったの?』
「あの……。」
 私の背後で修人くんの咳が聞こえた。よしよしという岡嶋くんの声も聞こえる。
『どこにいるの?』
「あの……、京都に……。」
 胸がチクチク痛む。どうしよう。私はなんでこんなところまで来ちゃったんだろう。
『そっか。実家へ帰ったんだね。ごめん、気を遣わせちゃって。』
「あ、いや、そんなんじゃ……」
 胸のチクチクが、ズキズキに変わる。

「恵太さん……」
『未散……、会いたい。戻ってきてくれないかなぁ。』
 恵太さん、ごめんなさい。私も会いたいです。
『あ、でも……。今何時?4時かぁ……。』
 恵太さんはその後数秒無言だった。
『夜になったら迎えに行くから、それまで実家で待ってて。』
「え、うん……。」

 電話を切ると、岡嶋くんが近寄ってきた。
「愛しい旦那様からやったん?」
「……うん。」
「そうか……。帰るんか?」
 私は少し考えた。
「夜まで、実家にいてたら、迎えに来てくれるって言ってたから……」

 突然、岡嶋くんが私の携帯を取り上げた。
「戻んな。」
 え? 私は呆然として岡嶋くんを見つめた。
「三人で暮らそうや。」

 え???

「やっぱりオレは、誰よりお前とおる時の方がしっくりくるっていうか、自然でおれる。お前かって絶対そうやねんって。あの旦那より、オレとおる方が、絶対楽しいって。」

 え???
 何言ってるのよ、岡嶋くん。
「岡嶋くん……?」

「裁判やったら、まかしとけ。できるだけ慰謝料安うしてもらうように、先生に頼むから。」

「こいつのこと、かわいそうやと思ってくれるやろ?」
 岡嶋くんは、修人くんを指差した。

 まだ、ついたままのテレビが夕方のアニメを流していた。

「恵太さんと別れろって言うの……?」
 私は、テレビの画像を目に映しながら、そんな言葉を漏らした。
「絶対、幸せにしたるから。お前のこと放ったらかしにせえへん。生活は苦しいかもしれへんけど、楽しくやろうや、な?」

 そんなこと、考えもしなかった。

 でも、テレビの傍で、また子供は眠そうに横になっていた。
「岡嶋くん……。」
 私は岡嶋くんが真剣な目で私を見つめていることに気づいた。


 私は、岡嶋くんの手の中の、私の携帯を見ていた。
 どんどん胸が鼓動を速めているのに気づいた。

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