good morning

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「お見合い結婚」 -はっぴぃ☆らっきぃ☆続編-

(14)ハッピーエンディング

 恵太さんは今まで機嫌が悪かったことなんかなくて、今日始めて恵太さんの表情が180度変わるのを見た気がした。
 心の中っていろんな感情があっていいはずで、いままで恵太さんはきれいな部分ばかり私に見せてきたけど、今日の姿を見て私は戸惑うどころか、逆に安心したりしている。
 岡嶋くんのことをすごく疎(うと)ましそうに見たり、留太さんや来海さんのことでムッとしたり。
 でも、さっきの電話では、いつもどおり、穏やかな恵太さんだった。
 電話があって、私はほっとしていた。
 恵太さんの電話の声を聞くと、会いたくてしょうがなくなった。

 でも、目の前にいるのは、恵太さんではなく岡嶋くんだった。
「オレのこと、今でも好きやろ?」
 そんなふうに強気で聞けるのは、岡嶋くんの性格のせい。
 ううん。岡嶋くんのせいにばかりしちゃいけないんだ。こうやって黙って付いて来た私が、岡嶋くんにそんな誤解をさせてしまったんだから。
「携帯、返して。」
 自分でも驚くくらいドキドキしている。
 めずらしいな。来海さん以外の人に、自分が腹を立てているなんて。私は性格がのんびりしているせいか、あんまり怒らないんだけど。
 修人くんが、じっと私たちのやりとりを見ている。ここじゃダメだ。
 私は子供に弱い。3人の姪や甥がいることで、子供をかわいいと思うし、どちらかと言うと子供の扱いも慣れている。
 この部屋でひとりぼっちでいる修人くんを見ると、つい手を差し伸べたくなってしまう。
 私でよければ面倒見てあげたくなってしまう。
 私はできるだけ笑顔で修人くんに話しかけた。
「お姉ちゃんね、今日だけなの。今日は修人くんがお熱出したから来たんだよ。ご飯作ってあげるからね。」
 そうして、顔を上げて、岡嶋くんの前に私は手を出した。
 岡嶋くんは、携帯を私の手に戻してくれた。
「買い物に行ってくるね。」
 この辺りは実家に近い。今まで岡嶋くんに会わなかったのも不思議だった。
 私と岡嶋くんがもし運命的な再会をしていたとしたら、それはきっと恵太さんと結婚する前にその機会が訪れているはずだった。
 本当にそう思える。

 六時になり、私は晩御飯として岡嶋くん親子に、おうどんを作ってあげた。
 それまでなんとか起きていた修人くんも、少しうどんを口にすると再び眠ってしまった。
 岡嶋くんはテレビをニュースに変え、あきらかに彼らしくないおとなしさで私の言葉を待っていた。
「岡嶋くん。帰るわ。」
「帰んなや。」
 岡嶋くんはただそれだけをつぶやいた。
「……帰る。大阪の物件はなんとか調べてみるわ。」
 私は、岡嶋くんに左腕を掴まれてしまったが、その力に負けないように後退りした。
「岡嶋くん、修人くんを大事にしてあげてね。預けるところがなかったら、ウチに連絡してくれたら、できるだけ力になるから。」
 私はなんとか岡嶋くんの顔を見て話そうとした。
 岡嶋くんは
「オレ、お前と再会したときに嬉しいって思ったんや。オレが人に会ってそんな気持ちになるなんて珍しいんやで。」
と、ため息をついた。
 でも、それは私も近い気持ちを持ってる。
 会えて嬉しかったし、楽しかったし、ちょっとハイになってる自分がいたりして……。
 でも、それは……。

「じゃあ、またね。」
 私は岡嶋くんの手を振り解いて、急いで家を出た。
 岡嶋くんの声はもう聞こえなかった。
 私が反抗したことで諦めたんだと思う。今まで私は岡嶋くんにはあまり逆らわなかったから。


 家を出てすぐ、時間を確かめた。
 6時半。
 私は携帯で実家に電話をした。
「もしもし、お姉ちゃん? あのさ、もう少ししたら恵太さんがそっちに……。」
 私が話そうとすると、美郷お姉ちゃんが遮った。
『まって、未散。恵太さんが今ウチに来たんやけど。あんた、どこにいるん?』

 がーん。遅かった。

「え、あ、あのクリスマス近いから、きれいやな〜って思ってあの、そこらへんをブラブラと……えっと……。」
 ダメだ。私の嘘なんて、美郷お姉ちゃんにはバレバレだ。
 美郷お姉ちゃんは、電話口で黙っていた。
「あの、もうすぐ家に着くから、待っててもらってください。」
 ……さぁ、なんて、恵太さんに言い訳しようかな。

 10分ほど歩いて、私は実家にたどり着いた。
 家の方ではなく、豆腐屋の店の木戸から中へ入ろうとした。椙矢が店を閉めようとしているところだ。
「椙矢。恵太さん来てるよね。」
「あれ。未散、早く家に上がれや。恵太さん待ってるぞ。どこで何しててん。」
「あ、うんうん。そうやね〜。」
 私はあいまいに笑いながら、木戸から中に入った。

 中に入ると恵太さんが掘りごたつにちょこんと座って、ご飯を食べていた。
 穂波、友見、奈波のチビたちが、恵太さんの体に抱きつき、まとわりつき、よじ登り、と好き放題していた。
「恵太さん、かなり痩せたわ〜。ちゃんと食べてなかったん?」
 美郷お姉ちゃんが、そんなことを恵太さんに話しかけながら、小鉢を一つ二つと運んできていた。
「あの、ただいま……。」
 小さな声で私が言うと、恵太さんがぱっと顔を上げた。
「おかえり〜。」
 美郷お姉ちゃんが元気な声で返してくれたが、恵太さんは私の顔を黙って見つめていた。
「あんたら、どないしたん? 今朝やっと出て行ったと思ったら、こうして夕方にはまたここに戻ってきて。そんなにここが好きかぁ?」
 美郷お姉ちゃんは冗談半分に言って、笑った。
「ご、ごめん……。」
 私は笑えなかった。
「さ。未散も食べて行き。」
「ごめん。お姉ちゃん。」
 たびたび、お世話になります。
 恵太さんの気持ちが気になる。恵太さんは私には何も聞かないで、子供の相手をしながらご飯を食べているだけ。
 怒ってるんだろうか。
 怒ってるとしたら、どうしたら私は許してもらえるんだろう。
 食事が終わって、恵太さんはすっと立ち上がった。
「ごちそう様でした。すいません、日に何度もお邪魔して。でも、またちょくちょく来ますよ。椙矢くんとも飲みたいしね。」
 そう言って恵太さんが笑っていた。
「いつでも来て。子供も大喜びやし。」
 美郷お姉ちゃんも私たちを送り出そうと立ち上がった。恵太さんはもう家の玄関に向かおうと部屋を出た。私一人立ち上がりそびれて、おろおろとしていると、恵太さんが戻ってきた。
「ほら、おいで。」
 恵太さんは私に手を差し伸べた。
「……恵太さん……。」
 私は恵太さんの出してくれた右手をとって、立ち上がると、そのまま手をつないで廊下を歩いた。
 ほんわか、あったかい。
 恵太さんの手が。
 そして、手を差し伸べてくれたときの、いつもと変わらない優しい表情が。

 私は玄関につくまでのほんの数秒の間に、ものすごく幸せな気持ちになった。
 こんなに、私を幸せにしてくれる人は、絶対ほかにいない。

「それじゃ、また。」
 そう言って、恵太さんは車に乗り込んだ。私も助手席に座った。
 手を振る美郷お姉ちゃんと子供たち、椙矢も玄関まで見送りに出てきた。
「未散!」
 美郷お姉ちゃんと椙矢が助手席に近寄ってきた。
 ウィンドウを開けて、「なに?」と聞くと、
「いい旦那さんなんやから、わがまま言うてたら、あかんよ。わかってる?」
と、説教めいた口調で言った。
「わかってるよ。わかってる。」
 私は何度も頷(うなず)いた。

 そして、車は出発し、恵太さんと二人きりの空間になってしまった。
 何を話したらいいか、言葉に困っていると、恵太さんから話しかけてくれた。
「どこへ行ってた?」
 その質問は当然で出てくるものであり、一番答えづらい質問でもあった。
「あの……。」
「昼は、大人気ない態度してごめんな。怒って寝てしまうなんてなぁ。」
「ううん。全然気にしてない。」
「そっか。よかった。愛想尽かされたかと思って、目が覚めてから、マジで焦ったよ。」
「そんな……。」
 通り過ぎる街はイルミネーションで、これでもかと派手に飾られて光り輝いているのに、私は隣で運転している恵太さんのことが気になって、景色などまったく目にはいらなかった。
「未散が家にいてないってわかったとき、あ、あいつに取られるって思ってしまった……。」
「え?」
「未散の元カレかな。カレシだったんじゃないの?あの弁護士事務所の人。」
「あ……うん。そう。」
 恵太さんはハンドルを握っていない左手で、私の右手をそっと握った。
 私は胸が痛くなって、目を瞑(つむ)った。
 言わなくちゃ。やっぱり、夫婦の間に隠し事って良くない。
 だって、私が好きなのは、この人だけだもん。

「あのね、恵太さん。さっきまで、岡嶋くんの家にいたの。」

「そうか。」
 恵太さんの表情は変わらない。運転中だし、当たり前か。

「来海さんたちのこと知ってるかなと思って、詳しいこと聞きたくて声をかけたら、お子さんが熱出してるって言って……。結局家までついていくことになっちゃった。でも、岡嶋くんとは何にも無いから。」
「うん。」
 恵太さんは少し、左手に力を込めた。

「高校時代と今は違うし。」
「うん。」

 しばらく沈黙が続いたけれど、恵太さんがこう言った。
「オレと来海も同じような感じだから、気持ちはわかるよ。一緒にいると懐かしくて、なんか楽しい。ほら、同窓会みたいな気分だよなぁ。」
 私は頷いた。何回も。でも運転中の恵太さんにはきっと見えていない。

「ちょっと、どっかで車止めようか。キレイすぎるよ、これ。」
 大きな店のある通りは、それぞれクリスマスのディスプレイの飾り付けがきれいだった。街路樹は光の花を咲かせている。

 停めた車の中で、私たちはずっと手をつないでいた。


「あー。」
 突然、恵太さんが声を出した。私は驚いて恵太さんの顔を見た。
 恵太さんはハンドルに顔をうずめてしまっていた。
「どうしたの?」
 恵太さんはハンドルに預けた体を横に向け、私の顔を見ると、にっこり笑った。


「子供が欲しい。オレたちの子供。」
 ぎゅっと握り締めた手から、その気持ちが伝わって来る。

「でも、何もしないでできるわけないよなー。なあ、未散。」
「え? う、うん。」
「じゃ、今から帰って作ろう。」
「え。」
「よし、帰るぞ〜〜〜〜。」
 恵太さんは急に車を発進させ、ちょっとスピードオーバー気味に走り続けた。


 もう、私たちのアパートが見えてきた。
 そのとき、恵太さんの携帯が鳴り出した。
 恵太さんが、私に電話を渡すと、
「ごめん、運転中に設定すんの忘れてた。出てくれる? 菅野の家からかかってきてる。」
と言った。
 私はいいよ、と言って携帯に出た。
『もしもし、恵太?伯母ちゃんやけどな。』
「未散です。こんばんは。恵太さん今運転中で……」
『あー、未散さんか。あんなぁ、今あんたらの家におるで。はよ帰っておいで。』

「えっ!!!!」

 また、ですか??

『恵太が5時ごろ家に来たんやけどな。留太と来海さん連れ帰ってきてくれてなー。お父さんやらお母さんやらに心配かけたこと、詫(わ)びさせとったわ。まあ、会社を潰したんはしゃあないわな、留太が悪いんやから。そんな話も聞いてな……』
「え、そうなんですか……。」
『そうや。ちょっと恵太を見直したわ〜。おとなしすぎる子やと思ってたけど、やるときはやるで。お父さんも、来海さんのことを許してくれてな。それで今、お祝いしてるんや。』
 恵太さんが心配そうな声を出した。
「どうした? 何かあった?」
「え、いえ、あの……」
『とりあえず、みんなで待ってるから、はよ帰っておいで。』
「あ、はい……。」
「未散、電話、かわろうか?」
 恵太さんは車を道路わきへ止めようとした。
「大丈夫、もう切れたよ。」
「なんて? 何があった?」

 私は恵太さんの顔を見ながら、あの狭い部屋に菅野家の人間が集まっていることを想像して、言葉を無くしていた。

「未散……?」

「今夜も恵太さんは早く寝ると思うわ。」
「え???」


「まさか……?」

 恵太さん、あなたの想像どおりです。


<END>

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全14話、不定期更新にも拘らず、辛抱強く読んで下さって、本当にどうもありがとうございました。

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