good morning

この作品の写真素材はあんずいろapricot×color様よりお借りしています


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「お見合い結婚」 -はっぴぃ☆らっきぃ☆続編-

(5)テンテキ

 それは土曜日の午後だった。
 すっごく幸せな恵太さんとの初めてのキスの後、彼女たちがやってくるという、電話が入った。
 そう、菅野家の女性3人組。伯母さん、お母さん、妹の篤子さん。
 余韻も何もあったもんじゃありません。
 ウチは狭いんですよ。ダイニングキッチンとリビング、そして寝室があるだけなんですから。
 先週も土曜日になるとやってきて、リビングで雑魚寝して、日曜に帰った菅野家の女性たち。
 そうまでして、どうして週末に押しかけてくるのか、わかりません。

 い・や・が・ら・せ、…でしょうか。
 ちがいますよね、なんたって、私、好かれてるお嫁さんですもん。あはは。

 あはは。

 …ちがう?

 恵太さんが言った。
「あいつら来ても、開けるな、絶対。」
「え?」
「居留守だよ、居留守。諦めて帰るまで、じっとしてよう。」
「何言ってるの、恵太さん。お母さん、合鍵持ってるよ?」
「ええ!」
 そう、私たちに勝ち目は無いんです。
「よし、じゃあ、ベランダから逃走だ。」
 恵太さん! よっぽど家族が苦手なんだなぁ。なんだか、子供みたいで笑ってしまう。
 幸い、ウチは1階なので、ベランダから逃走というのも、できなくは無いことだった。クツを握り締めて、私たちはベランダのフェンスを越えようとした。
 ちょうどチャイムが鳴り始めたところだった。ドンドンドンと戸を叩く音。
 恵太さんは軽くフェンスを飛び越え、まだ中にいる私の手を取って、引っ張り出してくれた。
 さながら、真昼の火事のよう。

 私たちはこっそりと駐車場に向かい、車に乗り込んだ。

 すると、トントンと車体を叩く音がした。

 私はドキッとして、思わず恵太さんの手を握ってしまった。
 ごめんなさい、ごめんなさい。恵太さんが逃げようって言ったんですぅ〜。怖くて目を閉じる。

 恵太さんが、私の手をそっと離して、ドアを開け、車の外に出た。
「久しぶりね。どこかに行くの?」
 そんな女性の声がした。
「うん…。別にあては無いんだけど…」
「私もそこまで、乗せてってよ。ケイちゃん。」


 ケイちゃん?


 私は目を開けた。
 恵太さんを“ケイちゃん”と呼ぶ人は、ただ一人…。
 車の外で恵太さんに話し掛けているのは、紛れも無く、来海さんだった。
 来海さん。そう、恵太さんの、元カノ…。私の天敵…。

「いいよ。乗れよ。」
 後部座席のドアが開いて、香水の匂いが車内に漂う。軽い振動が伝わった。

「あら、ひさしぶり。誰だっけ?」
 相変わらずの調子で、私に問いかける来海さん。
 私は心臓に余計な負担をかけながら、後ろを振り向く。
「未散です。恵太さんの、ヨメの。」
 ちょっといやらしい言い方かしら、と思いながらも、口が勝手に動いてしまう。
「へえ〜。結婚したんだ、ケイちゃん。すっごい無計画だね。」
「え?」
 運転席に乗り込んだ恵太さんが、目を瞬かせて固まっている。
「どういう意味ですか?」
 私は血流が促進されて、次第に体全体が赤くなりそうな気がした。

「ケイちゃん、無理してるんじゃないの? 痩せたもんね。私と付き合ってた当時より、ずーっと。」
「あー、別に無理は…」
「仕事が大変だっただけです!! ご心配いりません。これからは大丈夫ですから!」

「そうなのぉ? 所帯持つと、男って自信に満ちるらしいけど、ケイちゃんはなんでかしら、苦労しょってるって感じがするわよ。」
「そんな…」
「そんなこと絶対ありませんから。まだ結婚して浅いですし!!!」

 車はいつまでたっても出発できそうになかった。


 恵太さんが、冷たい空気を振り払うかのように、切り出した。
「それで、来海、どうしてこんなところにいたの?」
「…ん」
 憎まれ口なら舌が滑らかな来海さんが、なんとなく口ごもっていた。
「ケイちゃんがこの辺りに住んでるって、留太に聞いたから…」
「ああ。留兄に?」
「うん。ケイちゃんに会いたくなっちゃった…。」
「そう…」
 恵太さんはチラと私の顔を見てから、すぐにハンドルを抱え込むようにして前方を見つめた。
「来海、かなり運がいいよ。俺、殆ど家にいなかったんだよ。すっげー確率で会ったかもなー。」
 来海さんは平然としていた。
「確率?」
「そー。かなりの偶然。…な、未散ちゃん。」
 私はちょっとムッとしていたけれど、頷いた。
「うん…。恵太さん、さっき三重から帰ってきたところだし…。出張、す・っ・ご・く・長かった…」
 恵太さんは私の言葉の中にある棘に気付かないで、後部座席の来海さんを見て笑っていた。
 来海さんは、恵太さんをじっと見て言った。
「じゃあ、ケイちゃんに会えたのは、きっと運命なんだね。」
「え? う、うんめい?」
 恵太さんはまた前を向いて、困ったように額を中指の腹でさすっていた。

 私は、というと両手を握り締め、ワナワナと震えていた。
 運命ですか。そうですか。
「一体何の運命かなぁ〜。」
 私は独り言のようにつぶやいた。

 恵太さんは、慌てて、車を出した。
 どうやら、ようやく、私の機嫌の悪さに気付いたみたいだった。


「どこで、降りる? 来海…」
 とにかく、来海さんを乗せている間は、いくら暖房をかけても、空気が温もらない。

「どこでもいいよ。だって、目的はケイちゃんに会うことだもん。」

 ちょっと…、いい加減、そのストレートな物言い、なんとかしてよっ!
「来海さんには留太さんがいるじゃないですか。それとも、フラれたんですかぁ?」
 来海さんという人は、何を言っても許されるような、そんな図太い神経の人だと思っていた。
 だから、来海さんが私の憎まれ口に、乗ってこないと分かったとき、ちょっと、焦った。

 来海さんは、黙っていた。
 黙って、後部座席でうつむいて…。


「おい、来海、泣いてんのか?」
 恵太さんがびっくりして、声をあげた。

 車は赤信号で停まっている。
「大丈夫か? 来海…」
「大丈夫、ケイちゃん…。ごめん。ごめん。泣いたりして…。」


 しまった。
 私、悪者になっちゃったよ。

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