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| 「お見合い結婚」 -はっぴぃ☆らっきぃ☆続編- (6)優しさ 私は、心配そうに車の後部座席の彼女を覗き込む恵太さんを見つめた。 彼女のほうは…ウソナキ…? では、なさそうだった。 私は、赤信号で停まっている間に、助手席のドアを開け、車を降りた。 「未散ちゃん…?」 恵太さんは、驚いて私の顔を見上げた。 「私、ちょっと買い物でもしてきます。来海さん、きっと恵太さんと二人の方が話しやすいと思うから…。」 「え? そんな気を使わなくっていいよ。乗ってて。」 けれど、私は首を横に振った。 そして、ドアを閉め、駅に近い商店街の辺りを歩き出した。 泣かせてしまったのは私だし、それに私と恵太さんは、結婚してるんだから。 大丈夫、きっと大丈夫。 商店街のアーチを抜けると、駅だ。 急に飛び出してきたから、薄着をしていて、寒くてたまらない。 商店の一つ一つのヘビーな大阪弁のおじさんたちの顔は、寒さになんか負けていないけれど、結構商店街という場所は風が素通りして寒い。 早く、駅と直結のショッピングセンターにでも入ろう。そうすれば、少しでも暖房がきいている。 足早になりかけたちょうどその時、私の携帯が鳴った。 残念ながら、恵太さんからではなかった。 『未散、今どこにいるの?』 美郷お姉ちゃんの声だった。 『家に電話したら、向こうの伯母さんが出られて、留守だっていうから…』 「あ、うん…。ちょっと買い物に出てるの。駅前だけど…。」 『そう、じゃあ、すぐ、ウチにこれる? 恵太さんも一緒なんでしょ?』 「え? どうしたの?」 私は電車に乗って実家へ向かった。 美郷お姉ちゃんの話では、お母さんの腰の痛みが悪化し、入院することになったという。 お婆ちゃんはもともと体が言うことを聞かなくなっているので、頭は達者だけど介護の人間が必要だ。 そしてお姉ちゃんには3人も小さい子供がいるので、入院の準備はできても身動きできない状態だった。 だから、私が呼ばれた。家で子供とお婆ちゃんの面倒をみて欲しいというのだ。 お姉ちゃんの旦那になった椙矢は、子供くらい病院に連れて行けばなんとかなると言っていたらしいけど、どうしても、お婆ちゃんのことを放ってはおけなかった。 『ごめんなあ、未散。ちょうどヘルパーさんの来る日とちゃうから、お婆ちゃん、独りにできひんのよ。』 お姉ちゃんは謝っていた。 「水臭い。家族やんか。いますぐ行くから。」 私は恵太さんには連絡しなかった。 だって、そんなことしたら、恵太さんと来海さんのジャマをするようで、なんだか、嫉妬してるみたいだから。 嫉妬…。 多分、してる。 でも、恵太さんを信じてる。来海さんとよりを戻すなんて、ありえない。 そんな気持ち、忘れよう。 私が実家についたのは、夕方の4時過ぎだった。 「遅くなってごめんね。」 「うん、大丈夫。こっちこそ、急にごめんな。」 椙矢がそう言って、車にお母さんを抱えて行った。 もう、椙矢は完全にうちの人間なんだな。私なんかより、ずっと。 そうか。私はもう、菅野家の人間なんだから、当たり前だ…。でもまだ今ひとつ、菅野家の人間になれたような実感がわかない。『ヨメ』っていうスタンスから、まだ身内にはなれないでいる。なんでかな。 「お母さん、大丈夫?」 お母さんはちょっと青ざめた顔をしていたけど、にっこり微笑んで、後をよろしくと言った。 最後まで家の中で用事をしていた美郷お姉ちゃんは、ごめんね、と一言言っただけで、慌しく車に乗り込んだ。 私は玄関先で、子供たちと一緒に車を見送った。 子供たちと一緒にご飯を食べ、お風呂に入った後、お婆ちゃんの体を拭いてあげた。 「もうちょっとしたら、お姉ちゃんや椙矢が帰ってくるから。」 私は、お婆ちゃんに話した。 子供は寝静まり、静かな車のエンジン音が聞こえた。玄関前に停車した様子で、音が消えた。 お婆ちゃんは、もう眠りについていた。家の中は、帰ってくるお姉ちゃんたちのために、居間だけ灯りを点けていて、私は少しうとうとしていた。 チャイムが鳴った。 帰ってきたわ、と私はゆっくり立ち上がって、玄関の鍵を開けた。 でも、その時、顔を覗かせたのは、お姉ちゃんたちでなく、恵太さんだった。 恵太さんは私の顔を見ないで、中に入ってきた。 「恵太さん…。あの、ごめんなさい…。電話しなくちゃって思ってたんだけど…」 私は、恵太さんの雰囲気に呑まれて、思わず謝ってしまった。怒られるのかな、そんな緊張感が漂う。それくらい、恵太さんは顔を上げず、無言だった。 「もうすぐ、お姉ちゃんたち帰ってくるから、そうしたら、いそいで家に帰ろうって思ってたの…」 「うん。上がらせてもらうよ。」 恵太さんは、それだけ言って、黙ってクツを脱ぎ、冷たい空気をまとったコートのまま、上がってきた。 私は困って、ただ、恵太さんの後をついて歩いた。 恵太さんは居間でコートを脱いだ。そういえば、昼はコートなんか来てなかった。 「恵太さん、家に帰ったの?」 「ん? ああ。母さんたちに、美郷さんから電話があったって聞いた。内容も聞いたよ。」 「あ、そうなんだ…。」 「なんで、教えてくれなかったの?」 恵太さんはコタツに座ろうともせず、奥のお婆ちゃんの部屋を覗いた。 真っ暗な中、介護用ベッドに寝ているお婆ちゃんは、静かに寝息をたてている。 恵太さんは、お婆ちゃんのベッドのそばに腰を下ろし、私の手を引っ張って、隣に座らせた。 恵太さんの手の冷たさは、いつもの恵太さんの優しさを消しているような気がした。 私は答える言葉に詰まりながら、うつむいていると、恵太さんが言った。 「お母さんも、お婆ちゃんも、俺の家族なんだから、何かあったときはちゃんと呼んでくれなきゃ…」 「うん…。」 「このお婆ちゃんのおかげで、俺たち結婚できたようなもんだし…。」 菅野さんを、スガノさんと間違えて、お見合いを進めてくれたお婆ちゃん。私のことを心配してくれて、お見合いをいくつも用意してくれて…。だから私も感謝してる。結婚を賛成してくれた家族みんなに対しても。 「…ごめんなさい。」 「未散ちゃんは、まだ俺のこと、旦那だって思ってないんだろ…。」 「え…。」 「俺に気を使って、優しくしてくれるのは嬉しいけど、もっと束縛していいんだよ? もっとわがまま言っていいんだよ?」 恵太さんの静かな声が耳元で聞こえる。 だって。 だって、わがまま言って嫌われたくないし…。ヤナ女だって思われたくもないし…。 「夫婦なんだから、世界中が敵になっても、俺は嫁さんの味方になるよ。ちゃんと信じてよ。俺の親よりも、来海なんかよりも、未散を大切にしたい。」 恵太さんは私の頭を抱きしめて、髪に口付けてくれた。 「だから、分かった? ヘンな優しさは、イラナイから。」 「わかった…」 そんな風に呼び捨てにしてもらえると、なんだかわがままも言いやすくなるよ。 少し距離が近付いたみたいだもん。 キスしてって言いたくて、ちょっと恵太さんの顔を見つめてみた。 真っ暗な中なのに、恵太さんは、どうやって私の信号を読み取るんだろう。 優しいキス。 私は恵太さんにぎゅっと抱きついていた。 世界中で誰よりも、この旦那様が好き。 「未散…」 夢を見ているような気分で、私はいつのまにか、横になり…。そして恵太さんが、私の上に…。 「ただいま〜!」 「未散〜。遅くなってごめんね、ありがと〜。」 …お帰りなさい。 私のためを思うなら、もっと遅くなって欲しかった…。 恵太さん、家にはお母さん方が、待ってるんですよね? 「今夜は、ここに泊まらせてもらおうかっ…」 でも、お母さん方、放っといて大丈夫ですか? 「…あ、そうだな…。帰んないとな…」 夫婦になれるのは、いつの日だろう…。 |
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