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| 「スキだけど好きだよね?」 (2)クリスマスはひとりじゃない? 蹴と私の席は、向かい合わせだった。 アパレルメーカーの販売課と言っても、実際に売り歩く販売員(主に若い女性)を育成するのが、私たちの仕事。 当然ながら、同い年の女の子を指導したり、時には年上を相手にすることだってある。 私も蹴もまだ、入社2年目のヒヨッコだ。 でも蹴は、婦人服という、男子にはハードルの高い素材であるにも関わらず、まるきりハンデを感じさせない仕事っぷりだ。 ハンデがあるどころか、販売課きっての、ヤリ手である。 課長の千里陽人(せんり・あきと)はまだ若く、27歳というから、私たちと3歳しか違わない。 この人も相当ヤリ手だったのかな? いや、とにかく、江坂蹴は、千里課長のお気に入り。 私の恋のライバルは、もしかしたら千里課長じゃないかと疑いたくなるくらいの仲のよさだ。 さっき、蹴は何を言おうとしてたんだろう。 トイレの前で、唇を少し開いて、言葉を飲み込んでいた蹴。 そうだ、あの蹴の口から、『佳波』なんて、呼ばれたんだなぁ。なんだか感慨深い。 だって、まるで彼女みたいじゃない? 今頃になって、顔が赤くなってきたあ、あっはっは。 「吹田さん、なんでパソコン見て笑ってんの? 気味悪いよ。エロサイト、入っちゃだめだよ」 少しばかり気を抜くと、すかさず蹴が、ボディーブローを打ってきた。目の前でニヤニヤ笑っている。 「え、え、え、……サイトなんて、見てませんっ!」 私は多分眉を吊り上げて反論したんだろう。 エクセルの画面上、コピーするつもりで選択していた範囲を、勘違いで、デリートキーを押してしまって、販売計画の数値ををすべて、消してしまった。 「ああああぁぁぁぁ」 まだ、保存してなかったのに。 すると、蹴が私のそばに寄ってきて、パソコンの画面を見ていて大笑いした。 「あほ。あのなー、元に戻せばいいだけだろ?」 そう言って、いとも簡単に「戻す」という矢印をクリックして、帰っていった。 ああ、確かに。 あほだ。私は。 落ち込みながら、パソコンのキーボードに、紙くずがのっていたので、私は払い落として、仕事を続けた。 すると千里課長が、そのゴミを拾って、私の肩をポンポンと叩いた。 「ゴミは、ゴミ箱へ!」 「あ、す、すみませんっ」 私はそそくさと、その紙くずを捨てに席を立とうとした。 すると、蹴がひどく不機嫌そうな顔で咳払いをした。 ゴミ箱まで来て、ようやく、私は気がついた。 それも、蹴に肩を掴まれて、「ちゃんと中身を見ろ」と言われてからだった。 蹴は腕組みをして、私が紙くずの中身を見届けるのを、待っていた。 <クリスマスの予定はある?> なんて原始的なお誘い文。 でも顔は嬉しくてニヤついている。 「これ、誰がくれたんだろう?」 私が蹴の顔を見ると、蹴に頭をはたかれた。 誰かなぁ。クリスマスの予定を聞いてくれた人は。ナオちゃんかな、ミドリちゃんかな、アツコかな? まさか、男の人じゃあないよね、あはははは。 私は、廊下のゴミ捨て場まで来たついでに、ミルクココアを買いに自販機の前に立った。 いつまでも、なぜかついてくる、江坂蹴。 「江坂くん、どうしたの?」 「吹田、オマエの脳みそ、どうしたの?だ」 がびーん。吹田って呼び捨てにされた。佳波じゃなかったの??? 「わかったよ。オマエには、直接的に攻めるしかないようだな」 「ん?」 「あのね、メール送ろうと思ったけど、社内メールは危険だから、紙に書いたの」 「ふんふん」 「そしたら、もっと危険だったわけ」 「へ?」 私はココアに口をつけて、不思議そうに蹴の顔を見た。 「あのね」 蹴は大きく息を吸い込んだ。 そして、言おうとした瞬間、販売課の山口チーフが私たちのところへやってきたのだ。 「あ、二年生二人組み、ちょうどよかったわ。24日夜、空けておきなさいよ。販売課でクリスマスパーティーするらしいわよ」 山口チーフは、そう言い残してスタスタと去っていった。 「えええええええ?」 蹴は頭を抱えていた。 「なんっっっっでクリスマスに、仕事なんだよ〜〜〜〜」 私はもがき苦しむ蹴を見ながら、とりあえず、今年のクリスマスはひとりきりじゃないとわかって、ほっとしたのだった。 |
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