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| 「スキだけど好きだよね?」 (3)あの、同居人なんです 私は嬉しくてしょうがなかった。 何しろ、今年のクリスマスはひとりじゃないし、家の外でみんなと一緒にワイワイできるんだ。 「吹田、嬉しそうだな」 「うん、だって、クリスマスパーティーだもん」 どうやら、蹴は私のことを、佳波ではなく、吹田と呼ぶことに決めたらしい。 なんか怒ってるっぽくて怖いから、文句は言えない。 「クリスマスってさぁ……」 蹴がため息をつきながら言った。 「好きな子と二人っきりで過ごしたいじゃん。イチャイチャしたいじゃん」 「えー、そんなの贅沢だよ」 私は言って、自分の過去の悲惨なクリスマスを想像した。 「ひとりも寂しいけどさあ、私なんてさー、最近は家で浩四郎と二人っきりのクリスマスばっかでさ。なんか寂しくなってくるよ」 「浩四郎って誰だ?」 「え? 箕面浩四郎(みのお・こうしろう)」 「いや、フルネームじゃなくて、どういうやつだ、って訊いてるんだ」 私はうーん?と考えた。 「歳は30、仕事はSE、私のいとこ」 「ええっ? 二人きりで生活してんのか?」 「うん」 「えええっ???」 顔面蒼白の蹴だった。 「どうしたの?」 「そ、それじゃ、ほとんど嫁扱いされてないか?」 蹴は頭を振って、まるで夢でも見ているようなそぶりだった。 「まー、そうだなあ。家事はほとんど私がやってるかな」 「じゃ、そいつの、パ、パンツなんかも洗ってやってるのか??」 「うん、そーだよ?」 蹴はなぜか、絶句していた。 私の携帯が鳴った。 ちょうどまだ廊下に出ていたので、私は遠慮がちに電話に出た。 すると、相手は噂の渦中の、浩四郎だった。 「浩四郎、どうしたの?」 浩四郎、という名前を聞いて、蹴は私を凝視した。 「え? 今日は休んだの?」 浩四郎曰く、残業が続いて、おまけに休日出勤ばかりで、ぶっ倒れるから、今日は無理やり休んでやったという。それで、実は私が朝作っておいてそのまま忘れた弁当を、会社まで届けに来てくれたという。 「えー、ほんとに、ありがとー」 私は電話をしながら、エレベーターの前に立っていた。 なぜか、蹴もついてきて、一緒に玄関に続くそのエレベーターに乗り込んだ。 電話を切って、蹴がそばにいたことに、私は驚いたが、でも何も聞かなかった。非常に不機嫌そうな顔をしていた。怖い。なんか、私悪いことしたんだろうか。 玄関口に、男が立っていた。 ぼろぼろのジャージの上に、薄汚いフリースのジャンパーを着て、髪は実験室で爆発にあった研究員のような髪で、顔の下半分は青黒く、レイバンのサングラスをかけ、破れた靴下が覗く黄色のスニーカー、といういでたちだった。 手にはしっかりQooの模様のお弁当袋があった。 「浩四郎、ありがとうね」 私は浩四郎の手から、お弁当の包みを受け取った。 浩四郎のむさくるしい姿は見慣れていたけれど、こうしてピカピカの社内にいると、見事に異彩を放っている。受付のお姉さんも眉間にシワを寄せて、ヒソヒソ囁きあっている。 私が親しげに浩四郎のそばに寄っていっても、蹴はエレベーターのドアの前から一歩も動かず、浩四郎の姿を見つめていた。驚いていたのかな。ちょっと彼には刺激的な人種だったのかな。 「佳波、あの子、蹴か?」 突然、浩四郎がかたことで言った。浩四郎はこういうしゃべり方の人なのだ。ちょっと頭が良過ぎて、言葉を出すたびに力が入るらしい。 浩四郎と蹴の視線が交錯していた。 「うん、そうだよ」 「そうか、思ったとおりの子だ」 浩四郎の声は大きい。狭い玄関では話の内容はその場にいる全ての人に筒抜けだった。 「じゃ、帰る」 「うん。気をつけてね」 私は玄関の外まで浩四郎を送っていった。彼はバイクであっという間に帰っていった。 玄関に戻ってくると、受付の人と、蹴が話をしていた。私の姿を見ると、ピタリと話をやめた。なんかヤな感じ。 私がエレベーターで販売課のある4階に上がろうとすると、また一緒に乗ってきた蹴が、口を開いた。 「同棲中?」 なんで同棲なのよ。でも、蹴の目が怖くて何も言えない。 「なんで、オレのこと知ってんの?」 だって、話くらいするよ。好きな人の話くらい……。 「あーゆーヤツがタイプなの?」 だから、浩四郎は、浩四郎なんだってば。お兄ちゃんみたいな……。 「なんで、何にも言ってくれないの?」 ごめん、言えないよ。そんなにじっと睨まれてたら。怖いっていうか、悲しいよ。 「あのさ、クリスマスの日だけど……」 蹴が言おうとすると、エレベーターが4階に着き、ドアが開いた。 私は蹴の顔を見て、なんとか誤解を解きたいと思った。 「彼とは同居してるだけ」 その日、何か変な噂が広まったようだ。 私は未婚の母で、その父親とは一緒に住んではいるが、生活力のなさに呆れて離縁したいと思っているとか。 なんで、そんな話になるの? |
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