good morning




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「スキだけど好きだよね?」

(5)新入社員、、、ですか

 会社の社員用出口から出てみると、まだ5時半だというのに、辺りは真っ暗だった。
 さっきの、蹴との空間のぬくもりがまだ守護霊のように、やんわりとまとわりついている。
 出口からフラフラと歩いて、駅に向かうのだが、ちょうどお腹がすいてきた。
 コンビニで、チョコを買おうと中へ入った。

 蹴はまだ仕事が残ってると言っていたから、今頃はまだ仕事の真っ最中だろうな。

 さっき、どうして素直に「キライじゃないよ、私も好き」「迷惑じゃないよ、ありがとう」なんて感じに、上手く言えなかったのかな。
 本当に、ずっと好きだったのに。
 今更、もう遅いかな。
 戻って何か差し入れでもしようかな。

 買い物カゴに、コーヒーとプリンとサンドイッチを入れて、肉まんをどうしようかなと悩んでいると、後から来た人が私の前に回りこんできた。
 確かに、注文もせずにぼーっと立っていた私は、邪魔だったに違いない。
 すると、その人は、私の顔を見て、
「ごめんね、先に買ってもいいかな?」
と、笑顔で言うのだ。

「ちょっとー」
 私はびっくりして、その相手を叩いた。
「もー、なんでこんなところにいるのよ。今、ちょうど差し入れ買おうと思ってたとこなんだよ」
 私は目の前でニコニコしている江坂蹴に、弱くパンチを入れた。
「えー、ごめんごめん」
 蹴は、あいまいに笑って、ちょっとずつ、私から遠ざかろうとした。
「どこ行くの? 待ってよ」
 私はカゴの中身を見せて、蹴に聞いた。
「ね、これでいい? 私はホットのミルクティとチョコレートね、で江坂くんは、エビカツサンドに、コーヒーに……」
「差し入れなら、タバコがいいよ。外して、一服できるしさ」
「え? あ、そうだね」
 私はタバコも追加した。
 確か蹴のタバコはセブンスターだったはず。
「マルボロライト1つね」
 蹴はそう言って、あっという間に私が差し出したカゴの中身全部のお金を支払って、コンビニの袋を持った。
 えっ、お金払ってもらっちゃった……。差し入れになんない。
 しかも、当たり前のように荷物を持ってくれて。
 いつもの蹴に輪をかけて、ずっと優しい。
 蹴は優しいけど、ちょっと照れたりするから、わざとお兄さんぽく振舞ったりする。
 でも、このときの蹴は、何をするのも自然な感じだった。


 コンビニを出て、蹴と二人で並んで歩いていると、不思議な空間が流れた。
 あんまり間(ま)を作らない蹴なのに、このときはなぜか沈黙が続いた。
 もしかして、私のことで、何か気にしてるのかな?
 話しかけにくいとか思ってるのかな。

 ちゃんと想いを伝えていない。
 ちゃんと、応えていない。
 言わなくちゃ。

「あのね、江坂くん。私ね、ちゃんと言えなかったけどね、ほんとはね」
 蹴は黙って私の隣を歩いていた。
「好きなの。ずっと好きだったの」
 蹴はそっと私の頭に手を置いた。
「ありがとう」
 にこっと笑う。なんとも笑顔が幸せそうだ。
 私の頭の上にのっかった、蹴の手のぬくもりが、なんだか不思議な故郷のような温かさがあって、安心できた。
「好き」
 なぜだろう。この時の蹴の前では自然に言えた。
 笑顔で、優しく、素直に、言えた。
 この根性無しにしては、ずいぶんがんばったつもり。手はプルプル震えてるけどっ。

「こんな,ど真ん中直球の告られ方、久しぶり」
 蹴は少し顔を赤くして照れていた。
 そう言われた私の方だって、恥ずかしくて真っ赤になった。

 しばらくして、会社の出入り口が近づいてきたとき、蹴がつと立ち止まった。
 袋を全部私に差し出した。
「タバコはもうもらったから、ありがとう。あとは君が全部食べて」
「えっ?」
 蹴はコンビニの袋を高く持ち上げた。
 その袋を見上げた私の顔に、影が重なった。
 蹴の唇が、そっと私に触れ、甘く犯していった。

「ありがとうね」
 蹴はそう言って、呆然自失している私に袋を持たせた。


「俺も好きだよ」



 え、え、え、と、突然、そんなこと……。
 それに、なんて、とろけそうな、おいしいキス……。

 私はその場にしゃがみこんだ。

 蹴はタバコ1つを握って、どこかへ駆けていった。
 あれ? 会社には戻らないの?
 っていうか、私、立てないよ。





 24日、夕方から、販売課は一同近くのパスタの店の一角を借り切って、クリスマスパーティーと称する、忘年会が始まった。(それなら最初から忘年会として別の日にすればいいものを)
「いやー、お忙しいところ、わざわざお集まりくださって、どうもありがとうっ!!」
 千里課長の言葉は、まさにその通りだった。みんなは早く始めたくて、要するに早く終わらせたくて、既にワインを片手に待っている者もいる。

 販売課は仲が良いチームだったので、良質のワインやビールを飲んでいると、私はだんだんいい気分になってきた。
 いつのまにか、会を楽しんでしまっていた。
 でも、そでで、蹴が私をつつく。
「おい、あんまり飲みすぎんなよ」
「え、どうして?」
「このあと、……わかってるだろ?」
 私はうふふと笑った。
「うん」
 脱走…じゃなくて、抜け駆け?じゃなくて、ちょっとみんなより早く帰るだけ。
 早く帰るって、どういう意味だっけ……??

 急に蹴が席を立って、となりの数人の課員が食べているテーブルに移った。
 どうしたんだろう。なんで、わたしの隣からいなくなったの?
 そう思っていると、どうやら、喫煙席に移動したのだということがわかった。
 蹴に昨日、買ってあげたマルボロライト、吸ってるかなぁ?

 セブンスター?


 蹴が吸っている箱は、紛れも無くセブンスターだった。
 あれ?昨日だけ、特別だったのかな? 友達のタバコだったのかな?



 その時、千里課長が大声を上げた。
「えー、来年度からの新入社員ですが、もう配属が決まって、わが販売課に来ることになってるんで、ちょっとご紹介します。おい、江坂くん、あっと、江坂希生(えさか・けい)くん、こっち来て」
 すると、どこからともなく、見たことのある風貌の男性が課長のそばに立って、みんなを見渡した。

 おおおおーっとどよめく、販売課員たち。

 吸っていたタバコを落としかけた蹴は、ガタンと椅子を飛ばして立ち上がった。
「兄さん、なんで、ここにいるんだ?」
「おー」
 江坂希生と呼ばれた、蹴とそっくりな人は、にこにこと笑って弟に手を振っていた。

 ちょっと待って!
 私は、その人をじっと見つめた。
 わからない。蹴との違いがわからない。まるきりそっくりさんじゃない。
 ちょっとー、ちょっと、ちょっと!


 そのうち、希生は私の顔を見て、驚いたように目を見開いた。
 そして、ゆっくりとみんなに挨拶をして回る時に、私にはこう囁いた。
「昨夜はタバコありがとう」



 えっ。





 私は思わず唇を指で押さえた。
 あんなにスゴイ、酔ってしまいそうなほどのキスは、この人のものだったの?
 そして私は、見ず知らずのこの人に告白しちゃったの?


「江坂希生です。よろしくお願いします。ケイって呼んでください」

 し、新入社員って?
 お兄さんって?
 一体どういうこと?

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