good morning




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「スキだけど好きだよね?」

(7)クリスマス・スクエア

 まだクリスマス・イブだというのに、蹴は気が早い。もうお正月の話だなんて。
 でも。
「彼女だって、思ってもいいだろ?」
 ちょっと、嬉しい。
 ちょっとどころか、めちゃくちゃ嬉しい。でも、まだ私の気持ちは伝えてないんだ。
 一生懸命、頑張って、根性入れて告白したのに、相手がお兄さんだったなんてさ。

 蹴は私の手をとって、明るい街から離れてゆく。
「見せたい場所があるんだ」
 そこは、空きビルの屋上、この辺りの中心だった。

 景色はもう、言うこと無かった。
 私を探している間に買ったのかな、紙袋にクッション二つ、缶のホットココアとドーナツ、冷たいコンクリのブロックの上に並べ始めた。彼の分のコーヒーとタバコを出すと、紙袋は空っぽになった。
 私に、クッションをすすめ、いつもより輪をかけて優しい蹴だった。
「あのさー」
 蹴は少しうつむき加減で、言った。
「今までどうしようか、ためらってて、どうしても聞けなかったんだけどね」
「うん、なに?」
「携帯の番号とアドレス」
「ん? ああ……」
 私は困った。
「最初の頃、一度聞いたとき、断られてからさあ、ちょっと聞きにくくて」

 私の目の前には、いくらだろう、多分年末宝くじ1等分くらいの値段の、夜景があった。
 ありがとう。しずかで、誰もいないからちょっと怖いけど、でも、こうして蹴と二人でクリスマス・イブの夜を過ごせるなんて、幸せかも。
「教えてくれるよね? 付き合ったんだからさ?」
 いいよ、と言いたいけど、実は同居人の箕面浩四郎が、大の携帯嫌いで、私にまで携帯を持つなってうるさい。
 浩四郎は、パソコンは携帯してるくせに、携帯電話は携帯しないという不思議な行動をする。
 私が業務連絡以外の話しをする道具として、携帯を持っていたら、即刻取り上げられそう。だから、極力他人には教えてない。メールもアドレスも。無音にしておけばわからないかもしれないけど……。
「いいだろ? 携帯貸して」
「あ、う、う、うん……」
 私はカバンの中の携帯を取り出そうとして、家に置き忘れてきたことに気付いた。
「ごめん。家にある」
「えええ。携帯持ってなくて、よく平気だな」
 私は黙ってドーナツをつまんだ。

「そーやってさ」
 蹴が言った。
「女の子が甘いもの食べてるときって、すっげー幸せな顔すんのな。特に、佳波。オマエ、ホント幸せそうだよ」
 私はココアを飲んで、ニコニコした。

「なー」
 蹴が口を尖らせて、甘えるように言った。
「その口の中のドーナツ、ちょうだい」
「えっっっっ!!!!!」

 私があまりにも怪訝な顔つきで、腰を浮かせて立ち上がろうとしたので、慌てて蹴は私の手をひっぱり、私を引き止めた。
「ご、ごめん、オレ、そんなに野蛮なこと言った??」
 野蛮っていうか、変態っていうか、異常っていうか、赤ちゃんプレイ?

「いや、違う違う違う違うっ!! 誤解しないでくれよー」
 ここに携帯があったら、通報してるわ。浩四郎に。

「違うって。つまりだなー、キスしたいっていうことなんだけど、わかんない?」
 口の中にモノが入ってるときに、キスなんてできないもんっ。
「ごめん、ごめんね」
 蹴は、ちょっとがっかりしたような顔で、ぼんやりタバコを吸いだした。

 と思ったら、蹴はタバコをもみ消すと、急に私の肩を抱きしめ、顔を覗き込むようにして、唇を近づけた。
「え」
 私に反抗するスキはなかった。肩から下はしっかり抱きしめられ、ジタバタできない。


 少しずつ、遠のく意識。ふんわりと身体が軽くなるような錯覚。
 タバコの匂いが呼吸とともに入ってくる。
 柔らかな唇。溶けそうな舌で、私の、甘い口の中を撫でてゆくの。



 鼓動がどんどん強く高鳴るのがわかった。
 蹴の手があやしく、身体の線を沿って動いている。

 きゃああああああ。

 はずかしいっっっっ






 気がつくと、私は蹴を遠くへ突き飛ばしていた。

 もう、蹴は起き上がる気力も無かったようで、冷たいコンクリの上に寝そべって、ぐったりしていた。

「あ、ご、ごめん、ごめんね、江坂くん」
「江坂くん、じゃない。蹴」
「うん、ごめん、蹴……」

 そのとき、ダダダダダダっという誰かの駆け上がってくる音がして、私たちはびっくりして、階段の出口を見つめた。
 バタンと思い鉄製のドアを、いとも簡単に押し開けて入ってきたのは、浩四郎だった。
「浩四郎!」
「まさかっ。テレパスかっ!!??」
 蹴は真っ青になって、後退りした。

 私は浩四郎が、ぜいぜい息を切らして近寄ってくるのを、驚いて見ていた。
「佳波、連絡ない。帰り、遅い。オレ、探した。佳波探しに、ここまで来た」
「そ、そうなの? ご、ごめんね……」
「さっき、近く歩いてたら、蹴に逢った。だから、佳波はまだ帰らないから知らないか、と聞いた。そしたら、蹴、佳波のケイタイ握ってた。」
 なに?
 じゃあ、浩四郎は希生に逢ったのね。じゃあ、私、希生と一緒のときに、携帯失くしたってことかな?

 浩四郎の後から、希生がゆっくりとついてきた。
「よかった。知り合いだったんだね。俺、どう対処していいか、わかんなくて」
 たしかに希生の言い分も最もだ。浩四郎自体、かなり、謎の人物だから。

 ビルの屋上に、半身を起こしたまま身体は、完全に退(ひ)いている蹴。
 多分私の叫び声を聞きつけてやってきた、野性の勘の男、浩四郎は、蹴と希生の二人を交互に見返していた。
 そして、二人の男に囲まれた私の顔を、不思議そうに、そしてほんの少し疑うような目で見る希生。

 私は片手にココアの缶を持って、口の端にドーナツのかけらをつけて、3人の男たちを見渡した。
「あ、あの。景色がいいんで、ちょっと眺めていきません?」


 誰も返事をしなかったのは言うまでもない。

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