good morning




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「スキだけど好きだよね?」

(8)おおみそか

 私は28日が仕事納めで、年始は4日から出社予定だった。

 今日はおおみそか。あのクリスマスイブの騒動以来、まだ蹴とはちゃんと話をしていない。会うのが怖い気もする。
 でも私は、希生とも蹴とも連絡先を教え合っていないので、このまま、お正月の件もうやむやにできたら幸い……。なんて、やな感じ。私は蹴のことが好きで、ずっと憧れてたはずなのに、目を直視して笑うことができない。やましい気持ちでいっぱい。こんなのイヤだな。


 なんとか部屋の大掃除も終わり、私は一人の部屋で考えた。
 さて、どうしよう。
 実家に帰ろうかな。

 浩四郎は仕事の納まりがつかないらしく、年越しも何もないらしい。現場で新年を迎えることになりそうだ。なんだか、そうとう大きなチームで総合病院の中で使えるソフトを作るらしい。患者のカルテを担当の先生がパソコンで入力して、様々な事務処理を簡潔にする。このソフトを、各科全ての先生が使いやすいように作るのは大変だそうだ。
 で、浩四郎は、今夜も病院にお泊りする。
 私はひとりぼっち。友達と旅行でも計画すればよかったかな。

 私は軽く荷物をまとめ、書置きして実家に帰ることにした。
 <3日には帰ります>
 なんだか、本当に主婦の里帰りみたいで、笑ってしまう。コートを着て、さて出かけようかと思ったとき、家の電話が鳴った。
『今晩、帰る』
 突然、そんな言い方をするのは、もちろん、浩四郎だった。
「あ、そうなんだ。帰ってくるの?」
『帰る。佳波、実家帰るな』
「え?」
『今晩、帰る』
 そして、電話は切れた。

 なんで、私が実家に帰ろうとしたことがわかったんだろう???

 でも、まあいいか。
 私は書置きをクシャクシャと丸めてゴミ箱に捨て、カバンから荷物を取り出して、お正月の準備をすることにした。


 近くのスーパーであれこれと買い物をしていると、とんとんと背中を叩かれた。
 振り向いた私の視線の先にはカートを押す50歳くらいの主婦と、その傍に立つ若い男性がいた。
 目深に被ったニット帽を少し上げ、茶色の髪が見えるくらいに顔を出した。

 え、江坂くん。まぎれもない、彼は江坂……。

 ……希生か蹴かわからない。

 な、なんかしゃべってくれないかな。

 希生か蹴かわからない、その人は、にこにこしているだけで何も言わない。
「吹田佳波さんでしょ?」
 変わりに口を開いたのは、その江坂くんの隣の奥さんだった。
「あ、はい」
「蹴の母です」
「あ、こ、こんにちは……」
 っていうことは、この人は、蹴なの? なんで何もしゃべらないの?
「お正月、うちに来てくださるんですって?」
「えっ!」
 私は微かに首を横に振って、心の中で「い、行きません。行けません!」と叫んでいた。
 蹴のお母さんは、ちっちゃくて太っていて、優しそうな丸い顔で、すまなそうに言った。
「ごめんなさいね。蹴、風邪で寝込んでしまって、来ていただいてもお顔を見せることもできないから……」

 あらっ、そうなんだ!
 私は思わず笑みがこぼれた。ほっとしたのだ。
「そうなんですか。残念です」
 全然、残念そうじゃなく、満面の笑顔で答えてしまった。
「お大事にとお伝えください」
 そう言ってから、ちら、と傍に立つ江坂くんを見た。……希生だよね?
 彼はすっと母親から離れ、私の手から買い物カゴを奪い取って、店の床に置いた。
 そして、私の背中に手を回して、あっという間にスーパーの外に連れ出した。

 ベロアのブラウンのジャージに黒のパンツ。にこにこ笑ったまま、私を見下ろす彼。
「希生……さん?」
「いや、オレ、蹴だよ」
「え!!」
 ギクっとして、固まる私。

「なーんて、冗談だよ」

 同じ顔だけど、笑い方が違う。
 このほっとする笑顔は、希生だ、間違いない。

「ね、聞いていいかな」
 希生が急に真顔になって、尋ねてきた。

「オレと、蹴と、どっちと逢いたかった?」



 え。
 えっと……。

「もしかして、蹴と付き合ってるの?」



 えっと……。



 私がうつむいて黙っていると、希生は私の頭をポンポンと叩いた。
「気にしないで。いまの質問は、ナシね」


 私はそっと顔を上げた。
 いまだったら、言えるかも。ごめんなさいって、謝れるかも。希生のことは、誤解なの。
 誤解?
 誤解って、ひどいよね。ほんとに誤解?

 希生は笑顔のまま、私の額を撫でて、軽くキスした。
「オレのことも好きだよね?」

 あ……。あの。
「ちゃんと答えないと、本気でチューするよ」


 私は顔を上げて希生の目を見た。
 わかる? わかるかな。 嫌いじゃないよ。好き……だと思うな。うん、多分、好き……。えっと、ちゃんと言わなくちゃ……。
 私は大きく息を吸い込んで、口を開いた。
「す……」
 そのとき。


 遠くから、希生と全く同じ服を来た男の人が、しんどそうに前かがみになって、歩いてやってきた。
「おい、蹴……」
 その人は、ガラガラ声で、私の目の前の江坂くん(?)に向かって、そう声をかけた。

 え? 蹴?

 私の目の前の江坂くん(?)は、チッと舌打ちして、その、明らかに風邪を引いて辛そうな兄弟に向かって言った。
「いいところだったのに。寝とけよ、兄さん」


ええっ、蹴???


「いやー。独りで寝込んでるのは、寂しいからさー」
 ガラガラ声で言う希生さんは、えーと、つまり、母親にも蹴と間違われてたってことかしら?

 ていうか、蹴、一体どういうつもりで、そういう質問したの?

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