good morning




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「sole star」

(3)

 朝を迎えた悠子は目が覚めると、じっと自分を見つめる幼い連に気づいた。
「おはよう」
 そう悠子が微笑むと、真剣な顔をしていた連は、ようやく表情を緩めた。
「うん、おはよう」
「私の顔に何かついてたの?」
 連は優しい笑いを浮かべて顔を横に振った。そんな愛しい顔をしないで、と悠子は思った。抱きついてずっと一緒にいたいと思ってしまう。
「何か食うもの持って来る」
「私も行くよ」
 悠子は連の後について、キッチンへ向かった。そのキッチンに続いているリビングには、大きなツリーが飾られていた。悠子は和真が一生懸命飾りつけをしていたことを思い出して、ツリーに近づいた。
 和真、どこにいるの? ここにいないのはわかるけど、もうママって呼んでくれないのかな。
 そう思うと、涙がこみ上げてきた。
 ツリーの前でしゃくりあげている悠子の背中を、連がそっと撫でた。
「和真のこと思い出したの?」
 連は悠子の話を一語一句覚えていたようで、自分の未来の子供が和真という名前だということも、和真がツリーで大きな星飾りを喜んでつけていたことも、ちゃんと頭に入っていたのだ。
 うなずく悠子の前で、連は自分の家のツリーの天辺の星飾りを取って、悠子に渡した。
「これ、和真におみやげな」
 連は笑顔で言った。
 悠子の手のひらには、大きな金色の星が輝いていた。
 悠子は、その星飾りを見たとき、絶対に和真に渡したいと思った。もう一度逢いたい。ママと呼んでほしい。抱き上げたい。抱きしめたい。大きくなって連に似てくる和真を見たい。連と三人で、いっぱい思い出を作りたい、そう、クリスマスの休暇のように。
 クリスマスの休暇、悠子は自分たちが神戸へと向かって車に乗ったことを思い出した。その後の記憶は無い。思い出そうとすると、頭痛がした。
 気がつくと、キッチンのテーブルにサンドイッチが出来上がっていた。

 牛乳が飲めない悠子に、なみなみと牛乳を注ぐ連を見て、悠子は少し寂しさを感じた。連は何も知らず、悠子の視線が移ろうのを見て、言葉を飲み込んだ。

 連は食べ終わった後、また悠子を自分の部屋に連れて行った。
「ユウ、和真に逢いたいんだろう?」
「うん?」
 悠子は連の、今まで見たことの無い不安な顔色を見て驚いていた。
「どうしたの? 連……」
 連は一歩迷いながら悠子に近づき、そっと紙風船でも抱きしめるように優しく彼女を包んだ。
 とまどいながら、ぎこちなく唇を寄せると、悠子に短いキスをした。
「連」
「わかってるんだ、ごめん」
 連はさっと悠子から離れた。
 そして、低い声で言った。
「はやく帰さなきゃ」
 悠子は胸が痛んだ。
 このまま、ここにいたい。
 でも、和真にも逢いたい。


 家を出た二人は、また駅前の小さなショッピングセンターのクリスマスツリーのそばにやってきた。
「でっかい星飾りだな」
 連は見上げて言った。
「あっちをおみやげにしたら、和真喜ぶだろうなぁ」
 悠子は笑った。
 まだ、朝早い時間で、そばには人影は無かった。
 ツリーの天辺を見つめていた2人は、不意にそのプラスチックでできているであろう大きな星飾りが、白く輝きだしたのに気づいた。
 ママ。
 誰かが呼ぶ声がした。
 悠子は驚いて辺りを見回した。
 ママ。
 その声は、間違いなく、和真だ。
 ツリーの天辺から聞こえる。よく見ると、和真が星飾りのそばに浮かんでいる。
「和!」
 悠子は手を上げて、ツリーにしがみつこうとした。
「ユウ、待って」
 連は悠子の体を引きとめた。
 大きな星飾りはますます光り輝いて、そばに浮かぶ和真の形を鮮明に映し出した。
 和真、待ってて、ママもいまそこに行くから。悠子は泣きながら、手を伸ばした。
 連が、カバンの中から、連の自宅にあった星飾りを取り出して、悠子に持たせた。
「和真によろしくな」
 悠子が、その星飾りを握ったとたん、彼女の体は軽く浮かびあがった。手の中の星飾りも光り始め、熱くなった。和真の高さまでやってきた悠子は和真の笑顔を見て、涙をこぼした。
 ママ。お帰り
 和真の声が悠子の体を包んだとき、悠子は意識を失った。




 悠子はひどいのどの渇きを感じて、目を覚ました。
「水……」
 悠子が手を伸ばしたとき、誰かが悠子の手を握った。小さな小さな手だった。
「ママ」
 悠子ははっとしてその方を見た。
 和真が立って、笑っていた。
「和!」
 和真を抱きしめたいのに、体が起き上がらない。すると、周りがカーテンでしきられたベッドに寝かされていることに気づいた。カーテンの向こうから、クスクス笑い声が聞こえてくる。
 悠子が和真を見ていると、和真はカーテンを引いて隣のベッドを見せて、笑った。
「パパだよ」
 そこには、30歳の連がベッドの上に体を起こして、さもおかしそうに笑っていた。
「連っ!!」
「おかえり、ユウ、遅かったな」
「え??」
 悠子は驚いて、連の顔を見た。連はニヤっと笑うと、自分のサイドテーブルに置いてある、金色の星をとって、悠子に見せた。
「見覚えは?」
「え?え?」
 悠子はどういう意味なのか、必死で考えていると、ふと、自分の左手の中に固いものがあることに気づいた。左手を開いてみて、それを目の前にもってきた。
 金色の星飾り。これは、まさしく幼い連の家でもらった、和真へのおみやげ。
 悠子はそれを連に見せた。
「それ、おれんちのだろ?」
「う、うん……。じゃあ、その星飾りは?」
 連はニヤニヤしながら言った。
「ユウにもらった星飾りだ」
 和真がその星飾りを取りに連のそばに行った。
「これ、ママが僕へのおみやげにって、パパにもたせてくれたんだって」
 悠子は自分の手の中にある星飾りをじっと見て、そして、やはり連と同じように笑い出した。


 看護師が検温でやってきたときに、家族が巻き込まれた事故についてさっと話してくれた。詳しい話はその後、年取った本物の悠子の母が事細かく教えてくれた。
 とにかく、命に別状無かったのは奇跡だという事故だったそうだ。連も、悠子も骨折程度で済んでいた。和真に至っては無傷だった。



 連もまた、15年前の自分に戻ってしまい、そして悠子が考えたように、愛する人のもとへ飛んでいったのだ。そこで、若き日の悠子に逢ったらしい。
 連も悠子も、15年前にそういう相手に出会った記憶はなかったから、本当だったのか夢だったのか、わからない。けれど、星飾りが2個増えたのは、確かだった。
 2人の実家のクリスマスツリーに、いつからか星飾りがなかったのも、理由がわかる。


 そして、不思議なことはもう一つあった。それは、和真へのクリスマスプレゼントでもあり、連と悠子へのクリスマスプレゼントかもしれなかった。
 しばらくしてからわかったことだが、悠子のお腹には、新しい命が宿っていた。

「この子はねえ、和……」
 連に肩を抱かれながら、悠子はうれしそうにお腹をさわった。
「生まれてくるときには、15歳なのかもしれないよ」
「え? 僕より年上なの?」
 連は悠子の額を軽く小突いた。



<END> 2006.12

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